はじめに
サロモンの最新トレイルランニングシューズ、S/LAB Ultra Glideは、長距離走行を重視したモデルとして注目を集めている。このレビューでは、約56kmのテスト走行を通じて得られた知見を基に、その性能を詳細に分析する。従来のUltra Glideシリーズから進化した本モデルは、クッション性と安定性を向上させ、トレイルランナーのニーズに応える設計となっている。トレイルの多様な地形に対応する可能性を探りながら、日常のランニングシーンでの実用性を検証する。
シューズの概要
サロモン S/LAB Ultra Glideは、トレイルランニングのエリートラインであるS/LABシリーズに位置づけられるモデルだ。このシューズは、長時間の走行を想定し、足への負担を最小限に抑えることを主眼に開発されている。従来のUltra GlideからS/LABバージョンへ移行したことで、素材の質が向上し、より耐久性のある構造を実現した。テストでは、バッファードトレイルから軽度のテクニカル地形までをカバーし、その汎用性を確認した。全体として、アメリカ市場向けに調整された幅広のフィット感が特徴で、ヨーロッパスタイルの狭いモデルから脱却している点が興味深い。
- スペック:
- 重量: 27cm(US9)で約305g
- スタックハイト: ヒール41.0mm、フォアフット33.8mm
- ドロップ: 7.2mm(公式値6mm)
- ラグ深さ: 3.2mm
- ミッドソール幅: フォアフット114.9mm、ヒール92.6mm
- ねじり剛性: 4/5
- 柔軟性: 18.5N
これらのスペックは、クッション性を高めつつ安定を確保するバランスを示している。シューズの構造は、足がミッドソールに沈み込む設計で、周囲のガードレールのような形状が横揺れを防ぐ。こうした工夫が、長距離トレイルでの疲労蓄積を軽減する基盤となっている。
デザインと素材の進化
S/LAB Ultra Glideのデザインは、機能性を追求したミニマリズムを体現している。アッパーには厚めのエンジニアドメッシュを採用し、通気性を確保しつつ耐久性を高めている。この素材は、従来モデルで指摘された狭さの問題を解決するため、幅広めの足型に適応するよう調整された。クイックレースシステムは、迅速な調整を可能にし、トレイルでの素早い対応を支える。一方、アウトソールにはContagripラバーをフルカバーで配置し、relieveSPHEREシステムと呼ばれる凹状のスポットが足底圧を分散する。これにより、硬い地形での衝撃を和らげ、快適な走行を維持する。
素材面では、デュアルフォームのミッドソールが鍵となる。主要なEVAベースのEnergy Foamは安定性を提供し、二次的なPEBAベースのEnergy Foam+がレスポンシブさを加える。この組み合わせは、従来のUltra Glide 2のenergyFOAM(EVAとOBCのブレンド)から進化し、より高いスタックハイトを実現した。テスト走行では、この素材の耐久性が顕著で、約56km使用後もフォームの劣化がほとんど見られなかった。デザインの進化は、単なるアップデートではなく、トレイルランニングの課題である耐久性と快適性の両立を目指した結果と言える。
クッション性と快適さの評価
クッション性はS/LAB Ultra Glideの最大の強みだ。高スタックハイトのミッドソールが、足を優しく包み込み、長時間の走行で脚を保護する。テストでは、32km以上のロングランでその効果を実感した。エネルギーフォームの柔らかさ(22.0 HA)が、地面からの衝撃を吸収し、疲労を軽減する仕組みだ。特に、フォアフットとヒールのロッカー形状が、スムーズなトランジションを促し、クルーズのようなリラックスしたペースを維持しやすくしている。
快適さの観点では、幅広のフィットが中足部を締め付けず、自然な動きを許容する。従来モデルで感じられた狭苦しさが解消され、幅広足のランナーにとって親しみやすい。走行中、足首の安定感が際立ち、高スタックながらぐらつきが少ない点が印象的だ。ただし、極端に柔らかいフォームは、ペースを上げる場面でややレスポンスが鈍く感じられる場合がある。このクッション性のバランスは、ウルトラマラソンなどの長距離イベントで真価を発揮し、ランナーの持久力を支える。
- 特徴:
- デュアルフォームによる高い衝撃吸収(ヒール128 SA、フォアフット127 SA)
- エネルギーリターン(ヒール54.5%、フォアフット59.8%)
- ロッカー形状でスムーズな推進力
- 幅広設計で長時間快適
フィット感と安定性の分析
フィット感は、S/LAB Ultra Glideの使い勝手を左右する重要な要素だ。クイックレースシステムにより、迅速なロックダウンが可能で、トレイルの起伏に対応しやすい。テストでは、幅広めの足にフィットし、締め付け感が少なく感じられた。これは、従来のヨーロッパ調の狭いフィットから、アメリカ市場向けにシフトした結果だ。タンは完全にガセット付きで、厚さ4.4mmのパッドが快適さを高めている。
安定性については、高スタックハイトにもかかわらず、ミッドソールの幅がフォアフット114.9mm、ヒール92.6mmとコンパクトに設計され、横揺れを抑える。ねじり剛性が4/5と高いため、軽いテクニカルトレイルでも安心感がある。走行テストで、バッファードトレイルやグラスフィールドでは優れたパフォーマンスを示したが、極端なテクニカル地形では限界を感じた。この安定性の向上は、S/LABシリーズのプレミアム性を象徴し、ランナーの自信を高める。
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メリット:
- 幅広フィットで多様な足型に対応
- クイックレースによるセキュアなロックダウン
- 高スタックながら優れた安定性
- 耐久性の高い上部構造
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デメリット:
- トゥボックスが狭く感じる場合あり
- エネルギーリターンが控えめで高速向きでない
グリップ力と耐久性の検証
グリップ力は、トレイルシューズの核心だ。S/LAB Ultra Glideのアウトソールは、Contagripラバーに3.2mmのラグを配置し、relieveSPHEREシステムが足底の圧力を軽減する。テストでは、軽いテクニカルトレイルや混合地形で良好なトラクションを発揮した。ラグの小さなクレーター状デザインが、乾いた地形やグラスフィールドで効果的だ。ただし、深い泥地ではラグの浅さがスリップを招きやすい。
耐久性は、従来モデルで問題視されたフォームの早期劣化を克服している。約56kmの使用で、ミッドソールの劣化がほとんどなく、アッパーのメッシュも摩耗しにくい。アウトソールの厚さ1.5mmが、硬い表面での耐久を支える。この点は、S/LABのプレミアム素材がもたらす利点で、長期間の使用を想定したランナーにとって信頼できる。
- 改善点:
- 泥地対応を強化するためのラグ深さの調整
- レース収納ポケットの使いやすさ向上
- タンの折れ込み防止のためのデザイン微調整
従来モデルとの比較
S/LAB Ultra Glideは、従来のUltra Glide 2から显著な進化を遂げている。以下に、両モデルの主な項目を比較する。S/LAB版はスタックハイトを高め、クッション性を強化した一方で、重量が増加している点が特徴だ。この比較から、S/LABが長距離志向のプレミアムモデルとして位置づけられていることがわかる。
| 項目 | S/LAB Ultra Glide | Ultra Glide 2 |
|---|---|---|
| 重量 | 約305g (27cm, US9) | 約286g (27cm, US9) |
| スタックハイト | ヒール41.0mm / フォアフット33.8mm | ヒール30.6mm / フォアフット23.4mm |
| ドロップ | 7.2mm | 7.2mm |
| 主な技術 | Energy Foam + Energy Foam+ (PEBAベース) / relieveSPHERE | energyFOAM (EVA + OBC) / Reverse Camber |
| 特徴 | 高いクッションと安定性、プレミアム耐久性 | 軽量で柔軟、日常トレイル向き |
| 弱点 | 重量感あり、エネルギーリターン控えめ | アウトソール耐久性低め、狭いフィット |
この表から、S/LAB版はウルトラ距離での保護性を優先し、Ultra Glide 2は軽快さを重視している違いが明確だ。移行を考えているランナーは、使用シーンを考慮すべきだろう。
パフォーマンスと用途の考察
パフォーマンス面では、S/LAB Ultra Glideはロングランで輝く。テストで8分/kmペースを維持しつつ、快適さを保てたのは、クッションと安定性の賜物だ。非テクニカルな100マイルレース(約160km)で脚を労わる用途に適している。一方、テクニカル地形では柔らかさが仇となり、安定がやや損なわれる。ロードからトレイルへの移行もスムーズで、1-2kmの接続区間では問題ない。
用途として、ウルトラマラソン準備や週4回以上のトレーニングに推奨される。従来モデルからの改善が、耐久性を高め、信頼性を向上させた。トレイルランニングの多様化に対応する本モデルは、ランナーの選択肢を広げる存在だ。
結論
サロモン S/LAB Ultra Glideは、長距離トレイルランニングの信頼できるパートナーとして、クッション性と安定性を兼ね備えた優れたモデルだ。従来の課題を克服し、幅広フィットと耐久性を強化した点が評価できる。ただし、重量感やテクニカル地形の限界を考慮し、使用シーンを選ぶことが重要だ。このシューズの登場は、トレイルシューズ市場の進化を象徴し、ランナーがより長い距離に挑戦する機会を増やすだろう。将来的に、素材の軽量化が進むことで、さらに幅広い層に訴求する可能性がある。トレイルの未来を思わせる一足として、検討に値する。
参考資料