🏃 HOKA Cielo X1 2.0 レビュー：最速シューズの進化

HOKAは、日常のイージーラン向けシューズからワークアウト用、さらにはユニークなサンダルまで、多様なランニング製品で市場をリードしているブランドだ。しかし、ワールドクラスのレーシングシューズという点では、まだ一歩及ばない印象があった。そんな中、HOKAが最新のレーシングシューズとして投入したのがCielo X1 2.0である。このモデルは、保護性が高く分厚いレーシングシューズとして位置づけられ、極めてアグレッシブなロッカープロファイルを備えている。HOKAのApexスーパーシューズラインのひとつで、もう一方のRocketラインとは対照的に、よりボリュームのある設計が特徴だ。

前作のCielo X1を試用した際、アッパーの厚みやミッドソールとアウトソールの重厚感、そして過度にアグレッシブなロッカーがストライドを乱す要因となった。これらの問題は、多くのランナーからも指摘され、Rocket X2の方が自然な履き心地で好まれる傾向にあった。さらに、2024年の主要マラソン大会では、CieloやRocketが表彰台に上ることはなく、AdidasやNike、Asics、Under Armourなどの競合ブランドが優勢を保っていた。HOKAはこのフィードバックを基に、Cielo X1 2.0を再設計。重量を大幅に削減し、アウトソールの配置を調整、アッパーを軽量素材に刷新した。これにより、従来の課題を克服し、より競争力のあるシューズに仕上がっているかどうかが注目される。

本記事では、このCielo X1 2.0のスペックと実際の着用テストを通じて、その性能を詳細に分析する。ランニングのダイナミクスを重視し、ワークアウトやレースでの実用性を検証する。結果として、このシューズは特定の用途に特化したツールとして機能し、HOKAのレーシングラインの未来を示唆するものだ。ランナーが求めるバランスを追求した進化が、業界全体に与える影響も考察する。

概要

HOKAのCieloラインは、2024年に導入されたApexスーパーシューズのひとつで、Rocketラインと並ぶフラッグシップモデルである。Cielo X1 2.0は、前作のCielo X1を基盤に改良を加えたバージョンであり、スタックハイトは39mm、ヒールトゥトゥドロップは7mmと、レーシングシューズの標準規格を維持している。このシューズの最大の特徴は、極めてアグレッシブなロッカープロファイルで、フォアフット寄りの推進力を強調した設計だ。これにより、高速ペースでの推進が期待されるが、一方で自然なストライドを求めるランナーには馴染みにくい側面もある。

ミッドソールにはデュアルレイヤーのPEBAフォームを採用し、豊富なバウンスとパワーを提供する。アウトソールは、ラテラル側の切れ込みを廃止し、代わりにメディアル側に配置することで、トラクションを向上させつつ重量を軽減した。アッパーはエンジニアドジャカードメッシュに変更され、通気性と軽量性を高めている。これらの変更により、シューズ全体のフィーリングが洗練され、ワークアウト向けのツールとして位置づけられる。着用テストでは、イージーランでは不自然さを感じるが、閾値走やロングラン内のインターバルではそのロッカーが推進力を発揮した。全体として、HOKAのレーシング戦略を象徴するモデルであり、競合他社との差別化を図っている。

前モデルとの違い

Cielo X1 2.0の開発では、前作Cielo X1の欠点を徹底的に見直した。前作では、アッパーの厚みが足を温かくし、通気性が不足していた。これに対し、新モデルでは軽量なエンジニアドジャカードメッシュを導入し、足元の快適性を大幅に向上させた。また、ミッドソールとアウトソールの重厚感がストライドを乱す要因となっていたが、アウトソールの切れ込みをメディアル側に移すことで、トラクションを維持しつつ軽量化を実現した。

重量面での変化は特に顕著だ。前作Cielo X1の重量は、27cm（US9）で約264gであったのに対し、Cielo X1 2.0では約230gに削減されている。この約34gの軽減は、ランニング中の負担を軽くし、パフォーマンス向上に寄与する。ロッカープロファイルは引き続きアグレッシブだが、全体のバランスが改善され、半輪のような感覚がやや緩和された。着用テストで確認されたように、前作ではストライドの乱れが目立ったが、新モデルでは閾値走で推進力が活かされるようになった。これらの改良は、HOKAのフィードバック活用を物語り、ブランドの進化を示す好例だ。

デザインと素材

Cielo X1 2.0のデザインは、バナナのような曲線的なロッカーを基調とし、フォアフットからの推進を促進する。ミッドソールに用いられるデュアルレイヤーPEBAフォームは、柔軟性と反発力を兼ね備え、長時間のランでもエネルギーリターンを維持する。この素材は、スーパーシューズのトレンドに沿ったもので、競合ブランドのPEBA系フォームと同様のレスポンシブネスを提供する。

アウトソールは、耐久性とグリップを考慮したラバー配置で、メディアル側の切れ込みが重量削減に貢献している。アッパーのエンジニアドジャカードメッシュは、軽量さと通気性を両立し、従来の厚手素材から脱却した。これにより、足の蒸れを防ぎ、快適なランニング環境を実現する。全体のカラーリングやシルエットは、HOKAらしいボリューム感を保ちつつ、洗練された印象を与える。このデザインは、保護性を重視したレーシングシューズとして、怪我のリスクを低減する役割も果たす。素材の選択は、HOKAのイノベーションを体現し、ランナーのニーズに適応した進歩だ。

フィットと快適性

Cielo X1 2.0のフィット感は、やや小さめに設計されており、前作と比較してサイズアップを推奨する声が多い。着用テストでは、通常サイズでトゥが圧迫され、翌日に不快感を残したため、ハーフサイズ上を選択するのが適切だ。この調整により、足の安定性が向上し、長時間のワークアウトでもサポートが持続する。

快適性については、アッパーのメッシュ素材が通気性を高め、温暖な環境でも足を涼しく保つ。ミッドソールのクッションは豊富で、保護性が高いが、イージーランではロッカーの影響で不自然さを感じる。逆に、高速ペースではこのロッカーが推進を助け、快適さが際立つ。全体として、レーシングシューズとしての快適性はワークアウト向きで、日常使いには向かない。HOKAの他のライン、例えばRocket X2と比較すると、Cieloはよりサポート重視のフィットを提供し、ランナーの好みに応じた選択肢を広げる。

パフォーマンス

パフォーマンス面でCielo X1 2.0は、ワークアウトシューズとして優位性を発揮する。着用テストのイージーランでは、ロッカーがヒール着地を最小限に抑え、フォアフット寄りの走りを強いるため、馴染みにくい。しかし、3回の10分閾値走を組み込んだロングランでは、この曲線が推進力を生み、ペースアップを容易にした。バウンスの豊富さは、疲労蓄積を抑え、持続的なパワーを提供する。

レース用途では、保護性の高さが長距離で有利だが、レビュアーにとってはサポートが過剰で、自然なストライドを阻害する側面もある。重量軽減により、前作よりレスポンシブになったが、ワールドクラスのスーパーシューズとしてはまだ不足する。全体のパフォーマンスは、特定のトレーニングに特化し、HOKAのレーシングラインの多様性を高めるものだ。将来的な改良で、さらに汎用性が増す可能性がある。

比較

スーパーシューズの選択肢として、HOKAのモデルを比較すると、各々の特性が明確になる。以下は、主なモデルを重量、技術、特徴、弱点でまとめた表だ。

この表から、Cielo X1 2.0は前作の弱点を改善し、Rocket X2との差別化を図っている。Rocket X2はグラウンドフィールが優位だが、Cieloシリーズはボリュームのあるサポートを求めるランナーに向く。こうした比較は、個人のランニングスタイルに合った選択を促す。

競合他社との位置づけ

競合ブランドのスーパーシューズと比較すると、HOKAのCielo X1 2.0は独自のニッチを占める。NikeやAdidasのモデルは、2024年のマラソン表彰台を独占し、軽量さとエネルギーリターンのバランスで優位だ。一方、AsicsやUnder Armourも台頭し、多様な選択肢を提供している。HOKAはこれらに対し、保護性とロッカーのアグレッシブさを武器に差別化を図るが、トップランナーの採用が少ない点が課題だ。

この位置づけは、HOKAのブランド戦略を反映し、日常ランナーからエリートまでをカバーする。業界全体では、スーパーシューズの進化が加速し、素材革新が鍵となる。Cielo X1 2.0の改良は、HOKAが競争に追いつく一歩であり、将来的な表彰台獲得への布石だ。

結論

Cielo X1 2.0は、HOKAのレーシングシューズとして重要な進化を遂げたモデルだ。重量軽減と素材改良により、前作の欠点を克服し、ワークアウト向けの強力なツールとなった。着用テストから、イージーランには不向きだが、高速トレーニングではロッカーの推進力が活きる。サイズアップを考慮すれば、快適性も確保できる。

全体として、世界最速のスーパーシューズとは言えないが、特定の用途で価値を発揮する。HOKAのラインアップを豊かにし、ランナーの選択肢を広げる存在だ。将来的には、さらに自然なフィーリングを加えることで、業界のスタンダードを目指せるだろう。このシューズは、ランニング技術の進歩を象徴し、個人のパフォーマンス向上に寄与する。

参考資料