アディダスが展開するアディゼロシリーズの最新モデル、アディゼロ アディオス 9は、短距離レース向けの超軽量ランニングシューズとして注目を集めている。このシューズは、速さを追求するための軽量化を最優先に開発されており、5kmからハーフマラソンまでの距離で最大のパフォーマンスを発揮するよう設計されている。ミッドソールにライトストライク プロを採用し、デジタル技術を活用したアウトソールが特徴で、従来のレーシングシューズの常識を覆すアプローチを取っている。本レビューでは、その詳細な構造と実走テストの結果を基に、シューズの強みを分析する。
概要
アディゼロ アディオス 9は、アディダスのアディゼロラインアップの中で、短距離専用のレーシングシューズとして位置づけられる。開発の背景には、速さを生むための軽さが不可欠という哲学があり、ブランドはこれを「Be the lightest for the fastest」と表現している。このコンセプトは、ベルリンマラソンなどのイベントで強調されたもので、シューズの全体設計に反映されている。具体的には、ミッドソールの高さを抑え、余分な要素を排除することで、爆発的なスピードを可能にする。対象となる距離は、5km、10km、ハーフマラソン程度で、長距離向けのモデルとは明確に差別化されている。こうした設計は、競技者やスピードトレーニングを重視するランナーにとって、日常のトレーニングからレース本番までを支えるツールとなるだろう。
このシューズの最大の魅力は、軽さとレスポンスのバランスにある。ミッドソールはライトストライク プロを全長に使用し、クッション性を保ちつつ地面との一体感を高めている。アウトソールはデジタルデータを基にした独自のデザインで、耐久性とグリップを向上させている。アッパー部分もストレッチ性のある素材を採用し、フィット感を追求。全体として、従来のレーシングシューズが持っていた硬さを緩和し、より自然な走行体験を提供する。実走では、ペースアップ時のレスポンスが際立ち、短距離でのパフォーマンス向上に寄与する。
開発コンセプト
アディダスは、アディゼロ アディオス 9の開発で、短距離レースのニーズを徹底的に分析した。ブランドが「ディスタンス レーサー」と呼ぶこのカテゴリーは、1000mのような超短距離ではなく、5kmからハーフマラソンまでの範囲を想定している。この距離では、軽量性がスピードの鍵となるため、余計な重量を削減するアプローチが取られた。ベルリンマラソンでのミディアイベントで明らかになったように、エリートアスリートのプレッシャーマップデータを活用し、足への負荷分布を最適化している。
こうしたデータ駆動型の開発は、シューズの各部に及んでいる。例えば、ミッドソールの高さを27mmに抑えることで、地面を感じやすい走行感を実現。エネルギーロッドを排除し、代わりにプラスチックシャンクを挿入してねじれ剛性を強化している。これにより、短距離での爆発的な推進力を生み出す。全体の設計は、長距離モデルであるアディオス プロ 4の技術を借用しつつ、短距離特化に調整されている。結果として、ランナーは地面との密着感を活かしたダイナミックな走りを体験できる。このコンセプトは、現代のランニングシーンで増えるスピードワークの需要に応えるものだ。
ミッドソール
ミッドソールは、アディオス プロ 4と同じライトストライク プロ素材を全長に使用している。このフォームは、軽量ながら優れた反発性を発揮し、短距離でのスピード維持に適している。高さはヒール部27mm、フォアフット部20mmで、ドロップは7mm。こうした低めのスタックハイトは、レーシングシューズの中でも最低クラスで、地面とのつながりを強める。エネルギーロッドは搭載されていないが、上部にプラスチックシャンクを挿入し、ねじれに対する安定性を確保している。
実走での感触は、クッションが控えめながらも衝撃を効率的に吸収し、素早い反発に変換する点にある。ミッドソールの内側に描かれたラインは、シャンクの位置を示しており、構造的な強度を視覚的に確認できる。長距離モデルに比べて圧縮量が少なく、速いペースでのレスポンスが優れている。この設計は、マキシマムクッションのトレンドとは逆行するが、短距離ランナーにとっては地面を感じる喜びを提供する。結果として、ペースを上げた際の推進力が自然に生まれ、トレーニングの質を高める。
アウトソール
アウトソールは、デジタルデザインを基調とし、エリートアスリートのプレッシャーマップデータを活用して開発された。従来のコンチネンタルラバーとは異なり、TPU素材を一体成型で仕上げ、耐久性を大幅に向上させている。ラグの配置は不規則で、フォアフット部や内側に広い面積を割り当て、負荷の集中する箇所を強化。逆に負荷の少ない部分はラグを小さくし、軽量化を図っている。このアプローチは、3Dプリンティング技術でプロトタイプを作成し、テストを繰り返した結果だ。
グリップ力は優れており、柔軟性も高く、路面との接地面積を最適化する。タクミセン 10のアウトソールと比較すると、こちらは一体型で剥離のリスクが低い。テストでは、ウェット路面でも安定したトラクションを発揮し、内耐久性が高いことが確認された。このアウトソールは、短距離レースでの急加速やコーナリングをサポートし、ランナーのパフォーマンスを底上げする。デジタル技術の導入は、将来的なシューズ開発の方向性を示唆している。
アッパー
アッパーは、ワンウェイストレッチ素材を採用し、一方向にのみ伸縮する特性でフィット感を高めている。細い糸で織られた薄い生地は、通気性が抜群で、内部が透けるほど軽やか。ライトロックシステムとして、内側にバンドを配置し、薄さによる強度不足を補強している。内側に2本、外側に1本のバンドが横方向と縦方向に走り、アイレットと連動して足を固定する。
ヒール部にはスリングランチ ヒール構造を搭載し、アキレス腱周りをしっかりとホールド。パディングはスエード素材で柔らかく、足首のロックダウンを強化している。タンはアディオス プロ 4と同素材で、ソフトな感触。インソールも同様のものを用い、タパターンが若干異なる程度だ。このアッパーは、軽量さと安定性を両立し、走行中のずれを最小限に抑える。全体として、足との一体感が強く、短距離での集中力を維持するのに適している。
スペック
アディゼロ アディオス 9の主なスペックは以下の通りである。これらは、短距離レーシングシューズとしての特性を反映したものだ。
- 重量: 176g (27cm/US9)
- スタックハイト: ヒール27mm、フォアフット20mm
- ドロップ: 7mm
- ミッドソール素材: ライトストライク プロ (全長)
- アウトソール素材: TPU (一体成型)
- アッパー素材: ワンウェイストレッチ
- その他: プラスチックシャンク搭載、ライトロックバンド
これらのスペックにより、シューズは軽量性を重視した設計を実現している。
比較
アディゼロ アディオス 9を、アディゼロラインアップの他のモデルと比較すると、その短距離特化の位置づけが明確になる。以下に、タクミセン 10、アディゼロ ボストン 13、アディオス プロ 4との比較表を示す。この表は、各モデルの主な違いを整理したものである。
| 項目 | アディゼロ アディオス 9 | アディゼロ タクミセン 10 | アディゼロ ボストン 13 | アディゼロ アディオス プロ 4 |
|---|---|---|---|---|
| 重量 (27cm/US9) | 176g | 196g | 255g | 201g |
| スタックハイト | ヒール27mm / フォアフット20mm | ヒール33mm / フォアフット26mm | ヒール37mm / フォアフット30mm | ヒール39mm / フォアフット33mm |
| ドロップ | 7mm | 7mm | 7mm | 6mm |
| 主な技術 | ライトストライク プロ、プラスチックシャンク、デジタルアウトソール | エネルギーロッド、ライトストライク プロ | エネルギーロッド、ライトストライク プロ | エネルギーロッド、ライトストライク プロ、カーボンプレート |
| 特徴 | 超軽量、地面感強い、低スタックで短距離向き | ソフトなミッドソール、短距離レース向け | デイリートレーニング向き、安定性高い | 長距離レース向け、高反発 |
| 弱点 | クッション控えめ、長距離不向き | アディオス 9より重く、フィット感に差 | 重め、レーシングよりトレーニング寄り | 短距離ではオーバースペック |
この比較から、アディオス 9は軽さと低スタックで短距離に特化し、タクミセン 10とはエネルギーロッドの有無で差別化されている。ボストン 13は日常使いに適し、プロ 4は長距離のフラッグシップモデルだ。これらの違いを理解することで、ランナーは自身のニーズに合った選択が可能になる。
良い点・
悪い点
アディゼロ アディオス 9の強みと弱みを整理する。
良い点
- 超軽量で、ペースアップ時のレスポンスが優秀。
- 地面を感じる低スタックハイトが、短距離のダイナミックな走りを促進。
- アッパーのフィット感とヒールロックが、足との一体感を高める。
- デジタルアウトソールの耐久性とグリップ力が、さまざまな路面で安定。
- ライトストライク プロの反発性が、効率的なエネルギー変換を実現。
悪い点
- クッションが薄めのため、長距離やハードな路面で疲労が蓄積しやすい。
- 低スタックが好みに合わない場合、安定感が不足に感じる可能性。
- ミッドソールの圧縮が少ない分、柔らかいクッションを求めるランナーには物足りない。
これらの点は、短距離特化の設計ゆえのトレードオフと言える。
結論
アディゼロ アディオス 9は、短距離レースの新たなスタンダードを提案するシューズだ。軽量さと地面感を重視した設計は、5kmからハーフマラソンまでのパフォーマンスを向上させ、ランナーのスピードポテンシャルを引き出す。実走テストでは、足首のロックダウンとミッドソールのレスポンスが特に印象的で、従来のレーシングシューズを超える体験を提供する。一方で、長距離向きではないため、使用シーンを限定するのが賢明だ。
このモデルは、アディダスのデジタル技術活用が業界の未来を象徴している。ランニングシューズ市場では、マキシマムクッションの流れが強いが、低スタックのアプローチは多様なニーズに応える選択肢を増やす。スピードを追求するランナーにとって、試す価値のある一足であり、トレーニングの質を再定義する可能性を秘めている。
参考資料