HOKAのSkyward Xは、ブランドのイノベーションセンターであるFly Labから生まれた最新のランニングシューズとして注目を集めている。このモデルは、従来のHOKAラインナップとは一線を画す革新的な設計を採用し、日常のトレーニングをより快適で効率的なものにすることを目指している。極めて高いミッドソールのスタックハイトを特徴とし、PEBAフォームとスーパークリティカルEVAを組み合わせた二重構造が、クッション性と反発力を両立させる。カーボンプレートの搭載により、安定した推進力を提供する一方で、日常使いのスーパートレーナーとしての位置づけが明確だ。本記事では、このシューズの構造、素材、パフォーマンスを詳細に分析し、ランナーにとっての価値を探る。
概要
Skyward Xは、HOKAが2024年5月に発売した新モデルで、Fly Labの開発成果を象徴する一足だ。このセンターは、ブランドの標準的なランニングシューズとは別に、より革新的な製品を生み出すための拠点として機能している。Skyward Xの最大の特徴は、48mmのヒールスタックと43mmのフォアフットスタックによる極厚のミッドソールで、ドロップは5mmと比較的穏やかだ。これにより、高いクッション性を保ちつつ、安定した走行感を実現している。シューズのポジションはスーパートレーナーで、日常のトレーニングから長距離ランまで対応する汎用性を備える。開発の背景には、HOKAの伝統的なクッション重視の哲学がありつつ、新たな素材と構造の導入により、走りの質を向上させる試みが伺える。このモデルは、ランナーが求める快適さとパフォーマンスのバランスを追求した結果として、市場に新たな選択肢を提供している。
スペックは以下の通り:
- 重量:320g (メンズ US9.5 / 27.5cm相当)(US9 / 27cmでは約315g)
- スタックハイト:ヒール48mm、フォアフット43mm
- ドロップ:5mm
- 主な技術:PEBAミッドソールフォーム、スーパークリティカルEVAロッカーフレーム、カーボンファイバープレート、ディープアクティブフットフレーム
- アッパー:フラットニット
- アウトソール:ラバー覆盖部と露出型スーパークリティカルEVA
- 用途:ロードランニング、日常トレーニング
これらのスペックは、HOKAの公式データに基づくもので、ラボテストでは若干の差異が見られる場合があるが、全体として高いクッション性を支える基盤となっている。
構造とデザイン
Skyward Xのデザインは、視覚的にインパクトのある厚底ミッドソールが目を引く。ヒール部が48mmという高さは、標準的なランニングシューズの2倍近くに達し、まるでプラットフォームシューズのようなシルエットを形成している。この構造は、二重のミッドソールレイヤーによって実現されており、上層にPEBAフォームを配置し、下層にスーパークリティカルEVAを採用することで、柔軟性と耐久性を両立させている。PEBAはナイキのZoomXに似た素材で、軽量かつ高い反発力を発揮する一方、スーパークリティカルEVAは特殊な製造プロセスにより、気泡を均一に分散させ、クッションの持続性を高めている。
カーボンプレートはHフレームと呼ばれる独自の形状で、従来の平坦なプレートとは異なり、内側と外側のエッジを強化したサスペンションのような構造だ。これにより、足の自然な動きをサポートしつつ、横方向の安定性を確保している。底面から見ると、グレー部分がカーボン、赤部分がPEBAを示す意匠が施されており、ブランドの技術力を視覚的にアピールしている。ベースの幅広設計は、高いスタックハイトによる不安定さを解消するための工夫で、ヒールとフォアフットの接地面積を拡大し、アーチ部も広く取られている。これにより、着地時の衝撃を分散し、長い距離を走る際の疲労を軽減する。全体のデザインは機能性を優先しつつ、シンプルなカラーリングとリフレクティブ要素を加えることで、日常使いの利便性を高めている。このような構造は、HOKAのメタロッカージオメトリーを進化させたもので、滑らかなトランジションを促す。
素材の詳細
素材面では、Skyward Xは先進的なコンポジットを多用している。ミッドソールの約30%をPEBAが占め、残りをスーパークリティカルEVAが担う。このEVAは、通常のEVAを臨界点を超える温度と圧力で処理したもので、気体と液体の промеж状態(スーパークリティカル流体)を利用して微細な気泡を生成する。これにより、軽量性と耐久性が向上し、従来のフォームより高いエネルギー返還率を実現している。PEBAは足底全体に配置され、直接的なクッションを提供するが、視覚的にはヒール部のみに見えるよう設計されており、内部に溝を設けてフォアフット部にも挿入されている。
アッパー素材はフラットニットで、ストレッチ性が高く、足の形状に柔軟にフィットする。組織が粗いため通気性が優れており、夏場のランニングでも快適さを維持する。トゥボックス部にはリフレクティブコーティングを施し、耐久性を強化しているが、これはトレイルシューズの要素を借用したものだ。ヒールカウンターにはTPUパッドを外部に配置し、硬質な内部構造を避けつつ、かかとの安定を確保している。アウトソールはラバーで要所を覆い、露出したEVA部分は耐久性が高いため、摩耗の心配が少ない。全体として、これらの素材は重量を増加させる要因でもあるが、パフォーマンスの向上を優先した選択と言える。製造プロセスでは、EVAに二酸化炭素などの気体を注入し、泡状の構造を形成することで、低コストながら高機能なフォームを生み出している。
フィット感と快適性
Skyward Xのフィット感は、HOKAらしいゆったりとした空間が特徴だ。アッパーのニット素材が足を包み込むようにストレッチし、ソックスのような着用感を提供する。シューレースシステムは、3番目と4番目のアイレットに特殊なループを設け、足の甲のロックダウンを強化している。これにより、圧迫感を最小限に抑えつつ、安定したホールドを実現する。タングは幅広で厚いパッドが入り、足の甲を優しくカバーする構造だ。ヒールカラー部にもパッドを配置し、アキレス腱への負担を軽減している。
アクティブフットフレームと呼ばれる内部構造は、足を深く沈み込ませるデザインで、外観よりも内部空間が狭く感じられるが、これは安定性を高めるための工夫だ。着用時の第一印象は、厚底による高さの違和感だが、ベースの幅広さがそれを補う。テストでは、26cmサイズで標準的な足幅の場合、圧迫感は少なく、余裕のあるフィットが得られた。ただし、速いペースで走ると中足部内側に軽い圧迫を感じる可能性がある。通気性はニットの特性により優れており、長時間の使用でも蒸れにくい。全体的に、快適性を重視した設計は、長距離ランナーに向いており、日常のウォーキングからトレーニングまで幅広いシーンで活用できる。このフィットは、HOKAの他のモデルと比較しても、より包み込むような感覚が強い。
パフォーマンス
パフォーマンス面では、Skyward Xはクッションの豊富さが際立つ。歩行時、ヒール部のPEBAが柔らかく沈み込み、クッションの深さを体感できるが、ランに移行するとミッドフット着地でその感覚が変化し、48mmの厚さが気にならなくなる。反発力はカーボンプレートのHフレームが支え、エネルギー返還がスムーズだ。テストランでは、5分30秒/kmのペースから徐々に加速し、4分50秒/kmまで快適にこなせたが、4分30秒/kmを超えると重量による疲労が蓄積した。これは、320g近い重量が高速域での足運びを妨げるためで、スーパートレーナーとしての限界を示している。
安定性は幅広ベースとディープフットフレームにより優れており、方向転換時も不安定さを感じにくい。メタロッカーの曲線が滑らかなロールを促し、衝撃吸収と推進力をバランスよく提供する。長距離ではクッションの持続性が活き、膝や関節への負担を軽減するが、高速トレーニングには不向きだ。全体として、日常のイージーランやデイリートレーニングに最適で、HOKAの技術が融合した乗り味は、快適さを求めるランナーに適している。ラボデータでは、エネルギー返還率が66-68%と高く、衝撃吸収も優れているが、実走では重量がネックとなる。
比較分析
Skyward Xは、同じFly Lab出身のCielo X1と比較されることが多い。Cielo X1はレーシングシューズとして位置づけられ、軽量で高速志向だ。以下に両モデルの主な違いを表でまとめる。
| 項目 | Skyward X | Cielo X1 |
|---|---|---|
| 重量 | 315g (US9 / 27cm) | 249g (US9 / 27cm) |
| スタックハイト | ヒール48mm / フォアフット43mm | ヒール40mm / フォアフット32mm (公式値) |
| ドロップ | 5mm | 9.5mm (測定値) |
| 主な技術 | PEBA + スーパークリティカルEVA, Hフレームカーボンプレート | デュアルデンシティPEBA, 翼型カーボンプレート |
| 特徴 | 極厚クッション、安定性重視、日常トレーニング向き | 軽量高速、優れたエネルギー返還、レーシング特化 |
| 弱点 | 重量による高速域の疲労 | クッションの薄さによる耐久性懸念 |
この比較から、Skyward Xはクッションと安定性を優先し、Cielo X1はスピードを重視した設計であることがわかる。 Skyward Xの厚底構造は、長距離の快適さを高めるが、Cielo X1の軽量ボディは短距離やレースで優位だ。両者はHOKAのイノベーションを共有しつつ、用途の違いが明確で、ランナーのニーズに応じた選択が可能となる。
良い点
- 極めて高いクッション性:48mmのスタックが衝撃を効果的に吸収し、長距離ランで膝への負担を軽減。
- 優れた安定性:幅広ベースとHフレームプレートにより、高スタックでもバランスが取れる。
- 快適なフィット:ニットアッパーとパッドの配置が、包み込むような着用感を提供。
- 通気性の高さ:粗いニット組織が空気の流れを促進し、暑い環境でも快適。
- 耐久性:スーパークリティカルEVAの露出部が摩耗に強く、長寿命を期待できる。
- 汎用性:イージーランからトレーニングまで対応し、日常使いに適する。
悪い点
- 重量の重さ:315gを超えるため、高速ペースで疲労が蓄積しやすい。
- 高速域の限界:4分30秒/km以下では反発力が不足し、レーシングには不向き。
- 内部空間の狭さ:外観に比べてフィットがタイトで、幅広足には圧迫感が出る可能性。
- 価格の高さ以外のコストパフォーマンス:技術満載だが、重量がパフォーマンスを制限。
- 視覚的なインパクト:厚底デザインが好みを分ける。
結論
HOKA Skyward Xは、革新的な素材と構造を融合させたモデルとして、ランニングシューズの新たな可能性を示している。極厚のミッドソールとカーボンプレートの組み合わせは、快適さと推進力を両立し、日常のトレーニングを豊かにする。ただし、重量の影響で高速志向のランナーには限界があり、デイリートレーナーとしての活用が最適だ。このシューズは、HOKAのFly Labが目指すイノベーションの象徴であり、業界全体でクッション技術の進化を促す存在となるだろう。将来的には、軽量化が進むことで、より幅広い用途が期待される。ランナーは自身の走行スタイルを考慮し、このモデルがもたらす快適さを体感してほしい。
参考資料