概要
CraftのPure Trail Proは、同ブランドのトレイルシューズラインナップの中で最高峰のモデルとして位置づけられる一足だ。このシューズは、高速ダウンヒルや泥濘地、アルプスのような厳しい地形を想定して設計されており、Vittoria製のアウトソールを搭載した高性能な仕様が特徴である。全体として、耐久性と保護性能に優れた構造を持ちながら、快適性とパフォーマンスのバランスを追求している。しかし、実際の使用感ではいくつかの課題が浮上し、他ブランドの競合モデルと比較した場合に必ずしも最適な選択とはならない可能性がある。本レビューでは、ビルドクオリティ、快適性、パフォーマンスを詳細に検証し、トレイルランナーにとっての真価を探る。
- スペック:
- 上部: リップストップポリエステルにTPUオーバーレイ
- ミッドソール: CR Foam Pro(85% 窒素注入EVA、15% PEBA)
- フィット: ヒールとミッドフットがタイト、フォアフットに余裕
- アウトソール: Vittoriaハイトラクションラバー(タイヤ着想)
- ラグ深さ: 5mm
- スタックハイト: ヒール36mm、トゥ30mm
- ドロップ: 6mm
- 重量: 300g(27cm/US9)
アッパーの構造と耐久性
Pure Trail Proのアッパーは、耐久性を重視したリップストップポリエステル素材を基調とし、TPUオーバーレイを追加することで強化されている。この設計は、岩場や根っ子が多いトレイルでの擦れや衝撃から足を守る役割を果たす。ガスセットタンも採用され、内側全体にライナーが張られているため、異物の侵入を防ぎやすい構造だ。一方で、このライナーが通気性を若干低下させる要因となっており、長時間のランニングでは足の蒸れが気になる場合がある。ヒールとアンクル周りのパディングは適度で、安定したホールド感を提供するが、タンは極めて薄く柔軟なため、レーシング時の圧迫感を軽減する工夫が求められる。全体として、素材の選択は高品質であり、Craftの伝統的なビルドクオリティを体現しているものの、統合された際のフィット感に改善の余地が見られる。
ミッドソールの特性と保護性能
ミッドソールにはCR Foam Proを採用し、85%の窒素注入EVAと15%のPEBAを組み合わせている。この素材は理論上、軽量でレスポンシブなクッション性を発揮するはずだが、実際の感触は若干硬めに仕上がっている。Pure Trailの前モデル(バージョン1および2)と比較すると、柔軟性とレスポンスが向上しているものの、期待されるほどのバウンスやエネルギー返還が得られにくい。結果として、平坦なトレイルやアップヒルでは推進力が不足しがちだが、逆にテクニカルな岩場や不安定な地形では安定性を高め、アンクルの捻じれを防ぐ効果を発揮する。足裏の保護性能は優れており、地面の感触を適度に伝えつつ、鋭い石や根からの衝撃を吸収するバランスが取れている。この硬めのミッドソールは、長距離のウルトラレースよりも、安定性を優先する中距離トレイルに適した特性と言えるだろう。
アウトソールのグリップと耐久性
Pure Trail Proの最大のハイライトは、Vittoria製のハイトラクションアウトソールにある。このラバーはタイヤ技術に着想を得ており、5mmのラグが泥濘地や岩場で優れたグリップ力を提供する。Vibram Megagripを上回るほどの粘着力があり、フラットな岩盤や緩い礫地帯でも信頼できる安定性を確保する。耐久性も高く、長期間の使用でも劣化が少ないため、頻繁にトレイルを走るランナーにとって魅力的な要素だ。このアウトソールは、ミッドソールの硬さと組み合わせることで、全体の接地感を高め、テクニカルなセクションでのコントロールを容易にする。全体のビルドが個々のパーツの総和を超えていない点が惜しまれるが、アウトソール単体ではクラス最高レベルの性能を誇る。
フィットと全体の快適性
フィット感は、ヒールとミッドフットがスナッグでフォアフットに余裕を持たせたCraftのレギュラーフィットに基づく。しかし、トゥボックスの幅は適切である一方、高さが浅いため、足の甲に圧迫感が生じやすい。ミッドフットでは一定のセキュリティがあるものの、足のスライドが発生しやすく、レーシングをきつく締める必要がある。これにより、薄いタン越しにレースの圧力が足に伝わり、不快感を増す要因となる。ボリュームがやや多めで、全体的なホールドが緩く感じられる点は、前モデルからの継続的な課題だ。快適性全体では、ヒールパディングの良さが際立つが、上部の通気性不足やミッドソールの硬さが長時間のランニングで疲労を蓄積させる可能性がある。重量はスペック上重めだが、実際の着用感では軽快に感じられ、疲労した脚でも負担が少ないのはポジティブな点だ。
- 特徴:
- 耐久性の高いリップストップアッパーとTPU保護
- 優れた足裏保護と安定性
- クラス最高のVittoriaグリップ
- 軽快な重量感
パフォーマンスの評価
Pure Trail Proのパフォーマンスは、プロレベルを謳うシューズとしてはやや物足りない。ダウンヒルではミッドソールの硬さとアウトソールのグリップが相まって良好なコントロールを発揮するが、全体としてダイナミックなレスポンスが不足し、スピードや楽しさを十分に引き出せない。足の動きが上部で制限されず、ミッドソールが柔軟でないため、ランニング中にシューズ自体が気になり、集中力が散漫になる場面もある。トレイルとの接続感は適度で、保護性能が高いためテクニカル地形に強いが、トレーニングやレースで積極的に選びたくなるほどの魅力に欠ける。約50kmのテスト走行を通じて、悪くない体験は得られたものの、インスピレーションを喚起するレベルには達していない。
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メリット (
良い点):- 優れたグリップ力で多様な地形に対応
- 足裏の保護と安定性がテクニカルトレイルに適する
- ビルドクオリティが高く、耐久性に優れる
- スペック以上の軽快な着用感
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デメリット (
悪い点):- ミッドソールの硬さがバウンスを欠く
- トゥボックスの高さが浅く、圧迫感がある
- 上部のボリュームが多く、ホールドが緩い
- 通気性が不足し、蒸れやすい
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改善点:
- トゥボックスの高さを増やし、フィットを洗練
- ミッドソールを柔軟にし、エネルギー返還を向上
- タンにパディングを追加し、レーシングの快適性を高める
- 通気性を優先したライナー設計の見直し
競合モデルとの比較
Pure Trail Proは高性能を志向するが、類似のスタックハイトを持つ他モデルと比較すると、快適性とパフォーマンスで劣勢だ。具体的には、La SportivaのProdigio ProとVJのUltra 3が挙げられる。これらのシューズはビルドクオリティが同等以上でありながら、全体の統合性が優れている。以下に主なスペックを比較した表を示す。
| 項目 | Craft Pure Trail Pro | La Sportiva Prodigio Pro | VJ Ultra 3 |
|---|---|---|---|
| 重量 (27cm/US9) | 300g | 260g | 275g |
| スタックハイト | 36mm/30mm | 34mm/28mm | 38mm/30mm |
| ドロップ | 6mm | 6mm | 8mm |
| ラグ深さ | 5mm | 4mm | 4mm |
| 主な技術 | CR Foam Pro (15% PEBA), Vittoriaアウトソール | XFlow supercriticalミッドソール | SuperFOAManceミッドソール, ロックプレート |
| 特徴 | 優れたグリップと保護、耐久性高いアッパー | 軽量でレスポンシブ、優れたフィット | クッション性が高く、ワイドトゥボックス |
| 弱点 | 硬いミッドソール、浅いトゥボックス | サイズ選びがシビア | グリップがやや控えめ |
この比較から、Pure Trail Proのグリップは突出しているが、全体の快適性でProdigio ProやUltra 3に譲る。テクニカル志向のランナーにはCraftが適するが、多用途性を求めるなら他モデルが優位だ。
結論
Craft Pure Trail Proは、優れたアウトソールグリップと耐久性を武器に、厳しいトレイル環境で一定の役割を果たすシューズだ。しかし、ミッドソールの硬さや上部のフィット課題が、パフォーマンスの全体像を曇らせている。トレイルランニングの進化を考えると、このモデルはブランドのステップアップを示すが、競合との差別化が十分でない。安定性を優先するランナーには検討価値があるが、総合的な快適性を求めるならLa Sportiva Prodigio ProやVJ Ultra 3を推奨する。将来的に、Craftがフィットとクッションの洗練を進めることで、トレイルシューズ市場の競争力がさらに高まるだろう。このレビューが、読者のシューズ選びの一助となれば幸いである。
参考資料