ランニングシューズの進化は目覚ましく、特にスーパーシューズの分野では各ブランドが競い合っている。そんな中、BrooksのHyperion Elite 5は、前作からの大幅な改良により、NikeのVaporflyやAdidasのAdizero Adios Pro 3といった競合モデルと肩を並べる存在となった。このシューズは、プロアスリートの知見を活かした設計で、快適さと汎用性を重視。初心者や中級者のランナーにとって、初めてのスーパーシューズとして適した選択肢を提供する。レビューでは、そのバランスの取れた性能が、速さだけでなく日常のトレーニングにも寄与することを強調している。
概要
Brooks Hyperion Elite 5は、同社のスーパーシューズラインの最新モデルとして、2018年ボストンマラソン優勝者のDez Lindenのようなトップアスリートのフィードバックを基に開発された。従来のモデルが市場で十分な注目を集められなかったのに対し、このシューズは重量削減と素材の最適化により、競争力を高めている。主なターゲットは、エリートランナーだけでなく、幅広いペースで走る一般ランナーだ。快適さを最優先に据えつつ、推進力を提供する設計は、長い距離のレースやトレーニングでその真価を発揮する。全体として、このシューズはスーパーシューズの敷居を下げ、初心者がアクセスしやすくする役割を果たしていると言える。
前作のHyperion Elite 4からの進化は顕著で、軽量化とミッドソールの改良が鍵となっている。これにより、Vaporflyのような推進力の強いモデルに近づきつつ、独自の快適性を維持。ランニングシーン全体で、スーパーシューズがエリート専用から大衆向けへ移行する象徴的な一足だ。実際の使用感では、さまざまなペースに対応する柔軟性が評価されており、3時間以内のマラソン完走を目指すランナーから、4時間や5時間台の完走者まで、幅広い層にメリットをもたらす。
スペック
Hyperion Elite 5の基本スペックは、スーパーシューズの基準を満たしつつ、実用性を考慮したものとなっている。以下に主な項目をまとめる。
- 重量: 約196g (メンズUS9 / 27cm)
- スタックハイト: ヒール40mm、フォアフット32mm
- ドロップ: 8mm
- ミッドソール素材: DNA Gold (PEBAベースのエネルギー返還型フォーム)
- アッパー素材: シリコンメッシュ
- アウトソール: ラバートラックタイプ
- 用途: マラソン、テンポラン、インターバルトレーニング
これらのスペックは、前作のHyperion Elite 4（重量約221g）と比較して軽量化が図られており、より効率的な走りを可能にしている。スタックハイトは法規制の上限に近く、クッション性を確保しつつ、安定したドロップで自然な足運びを促す。
デザインと外観
Hyperion Elite 5のデザインは、スーパーシューズ特有の派手さを備えつつ、機能性を優先したものだ。ベビーブルーとピンクのカラーリングは、目立つ存在感を放つが、必ずしも万人受けするわけではない。スーパーシューズの多くが鮮やかな色使いを採用する中、このモデルもレースデイのピーコッキング（目立つ装い）を意識したスタイルとなっている。しかし、日常のトレーニングシューズに近い控えめな外観を好むランナーにとっては、やや派手すぎるかもしれない。
全体のシルエットはスリムで、空気抵抗を減らす形状を採用。ミッドソールの球状カットアウトが視覚的なアクセントとなり、柔軟でバウンシーな感触を予感させる。こうしたデザイン要素は、単なる見た目ではなく、走行中の快適さを支える役割を果たしている。Brooksは、プロアスリートの意見を反映し、機能美を追求した結果、このような独特の外観に落ち着いたと言える。ランニングの文脈で考えると、外観は性能の延長線上にあるため、ファッション的な好みを越えて評価すべき点だ。
フィットとサイズ
フィット感はHyperion Elite 5の強みのひとつで、幅広い足型に対応する設計となっている。サイズは通常のシューズよりやや大きめに感じるため、US9（27cm）の場合、ハーフマラソンやフルマラソンでの足の腫れを考慮して選ぶのが適切だ。フォアフットのボリュームが浅めのため、トゥボックスに圧迫感を覚える可能性があるが、ストレッチ性の高いメッシュ素材がそれを緩和する。
ヒール部分は浅く、アンクルサポートが控えめなため、細い足首のランナーではスリップが発生しやすい。そこで有効なのが「レーサーズループ」と呼ばれるランニングテクニックだ。これは、シューレースを追加のループに通すことで、アンクルをよりタイトに固定する方法。実際にこの手法を適用すると、ヒールスリップが解消され、安定したフィットが得られる。Brooksの他のモデルでも推奨されるこの工夫は、シューズの汎用性を高めている。全体として、フィットは快適さを重視したもので、初心者が長時間着用してもストレスを感じにくい。
サイズ選びのポイントとして、通常サイズのクォーターサイズ下を選ぶ選択肢もある。幅広の足型でも対応可能だが、試着を推奨する。こうした調整のしやすさが、このシューズを初心者向けに位置づける要因となっている。
ミッドソール技術
ミッドソールの革新が、Hyperion Elite 5の核心だ。DNA Goldと呼ばれるPEBAベースの素材は、Brooks史上最もエネルギー返還率の高いフォームで、柔らかさと反発力を両立。球状のカットアウトが特徴で、これにより足裏にソフトでバウンシーな感触を提供する。走行中、この技術はクッション性を高め、さまざまなペースで快適さを維持する。
前作からの進化として、重量削減がミッドソールの効率を向上させた。Vaporflyのような強い推進力には及ばないものの、トレードオフとして汎用性が向上。ロングランやテンポランでその利点が顕著で、エリート向けの硬い反発ではなく、柔らかなレスポンスが初心者に優しい。技術的には、プロアスリートのDez Lindenの知見が反映され、マラソンでの持続性を重視した設計となっている。このミッドソールは、スーパーシューズのトレンドを捉えつつ、Brooks独自の快適さを加味したものだ。
アッパーとアウトソール
アッパーは軽量のシリコンメッシュを採用し、通気性を確保。雨天時には水が染み込みやすいが、スーパーシューズの軽量化優先という文脈では避けられない。フォアフットのボリュームが浅いため、トゥへの圧迫を懸念する声もあるが、素材の伸縮性が高く、黒爪などのトラブルを防ぐ。全体として、アッパーは重量を抑えつつ、耐久性を保つバランスが取れている。
アウトソールはラバートラックタイプで、ロードレースに適したグリップを提供。乾燥路や湿潤路、さらには軽いトレイルでも耐えうる耐久性を持ち、使用後の摩耗も控えめだ。よりグリップの強いモデルが存在するものの、主要用途であるロードレースでは十分。こうした要素が、シューズの汎用性を支え、トレーニングからレースまでシームレスに使える。
比較
Hyperion Elite 5を前作や競合と比較すると、そのポジションが明確になる。以下に、Hyperion Elite 4との比較表を示す。
| 項目 | Hyperion Elite 5 | Hyperion Elite 4 |
|---|---|---|
| 重量 | 約196g (US9 / 27cm) | 約221g (US9 / 27cm) |
| スタックハイト | ヒール40mm / フォアフット32mm | ヒール40mm / フォアフット32mm |
| ドロップ | 8mm | 8mm |
| 主な技術 | DNA Gold with spherical cutouts | DNA Flash |
| 特徴 | 快適さと汎用性が高く、さまざまなペース対応 | 推進力重視だが重め |
| 弱点 | 推進力が競合に劣る | 重量がネックで疲労蓄積しやすい |
この表から、Elite 5は軽量化により扱いやすさが向上している。一方、Nike Vaporflyはより強い推進力を提供するが、遅いペースでの快適さが劣る。Adidas Adizero Adios Pro 3も軽量で速さを重視するが、Elite 5のような汎用性に欠ける。こうした比較から、Elite 5はエリート向けではなく、幅広いランナー向けのバランス型として差別化されている。
競合との違いは、快適さの度合いにある。Vaporflyは前方への推進が顕著だが、Elite 5はソフトなレスポンスで長距離をサポート。Adios Pro 3の軽さは魅力的だが、Elite 5の安定感が初心者に優位だ。全体として、市場での位置づけは「大衆向けスーパーシューズ」として独自のニッチを確立している。
良い点と
悪い点
Hyperion Elite 5のメリットとデメリットを以下にまとめる。
良い点
- 快適さが抜群で、長時間走行でも疲労が少ない。
- 汎用性が高く、ロングランからインターバルまで対応。
- 軽量化により、前作より扱いやすい。
- レーサーズループなどの工夫でフィット調整が可能。
- ミッドソールの球状カットアウトが独自のバウンシー感を提供。
悪い点
- 推進力がVaporflyほど強くない。
- 外観が派手で、好みが分かれる。
- フォアフットのボリュームが浅く、圧迫感を覚える場合あり。
- 雨天時の防水性が低い。
- ヒールスリップが発生しやすい足型もある。
これらの点から、性能のトレードオフが明確だ。改善点としては、アッパーのボリュームを増やし、防水性を強化すれば、さらに幅広いユーザーに訴求できるだろう。
結論
Hyperion Elite 5は、スーパーシューズの新基準を提示する一足だ。快適さと汎用性を武器に、初心者や中級者がアクセスしやすい設計が魅力。速さの追求だけでなく、日常のランニングを楽しむためのバランスが取れており、3時間から5時間台のマラソン完走を目指すランナーにおすすめできる。ただし、エリートレベルの marginal gains を求めるなら、VaporflyやAdios Pro 3が適する。
業界全体では、スーパーシューズの民主化が進む中、このモデルは大衆化の象徴となる。技術の進歩がランニングの裾野を広げ、将来的にさらに多様な選択肢が生まれるだろう。最終的に、シューズ選びは個人のペースと好みに依存するが、Hyperion Elite 5はそんな多様性を体現した存在だ。
参考資料
