日本を代表するスポーツブランドであるASICSが、2025年にリリースしたソニックブラストは、ブラストシリーズの最新モデルとして注目を集めている。このシューズは、日常のトレーニングからテンポランまで対応するスーパートレーナーとして設計されており、軽量性と反発力を兼ね備えたミッドソール構造が特徴だ。本記事では、ソニックブラストの詳細な構造分析から走行テストの感想、競合モデルとの比較までを検証し、ランナーにとっての位置づけを探る。ASICSのブラストシリーズがどのように進化し、多様なランナーのニーズに応えているかを、客観的な視点から考察する。
概要
ASICSのブラストシリーズは、初心者から上級者までをカバーするラインナップとして発展を遂げてきた。ソニックブラストは、このシリーズの新星として位置づけられ、ノバブラスト5やスーパーブラスト2 パリ、メガブラストといった既存モデルと並んで、トレーニングシューズの選択肢を広げている。特に、ソニックブラストはスピードトレーニングに特化した設計が施されており、軽量で弾むような推進力を提供する。シリーズ全体では、ノバブラスト5がジョギングや回復走向きのエントリーモデル、スーパーブラスト2 パリが長距離向けの軽量シューズ、そしてメガブラストがプレミアムな長距離トレーニング用として差別化されている。一方、ソニックブラストはこれらの隙間を埋め、プレートを挿入したスピード志向のポジションを確立した。ASICSの開発者は、市場のトレンドを捉え、トレーニングシューズの多様性を高めることで、ランナーの選択肢を網羅的に揃えたと言える。このモデルは、日常の高速トレーニングを効率化し、競技志向のランナーに新たなツールを提供する存在として、業界に影響を与えそうだ。
ミッドソール構造
ソニックブラストのミッドソールは、デュアル構造を採用しており、上部と下部のフォームが異なる素材で構成されている。上部、つまり足底に接する部分には、FF TURBO SQUAREDと呼ばれる新しいフォームが使用されており、これは既存のFF TURBOフォームに比べて反発力が33%向上し、10%柔らかく、3%軽量化された進化版だ。この素材はALIPHATIC TPUを基調とし、エネルギーリターン、耐久性、柔軟性、軽量性を兼ね備えている。これにより、速いペースでの推進力が強化され、ランナーのストライドをスムーズにサポートする。一方、下部、地面に接する部分にはFF BLAST MAXフォームが用いられ、これはノバブラスト5と同じ素材で、軽量で柔軟なクッション性を発揮する。これらのフォームの違いが、全体のバランスを生み出している。さらに、二つのフォームの間にASTROPLATEと呼ばれるPEBAXプレートが挿入されており、これがキックオフ時の弾性を高め、推進力を倍増させる役割を果たす。ミッドソールの高さは、後足部で46mm、前足部で38mm、オフセットは8mmとなっており、メガブラストの45mm/37mm/8mmと比較してわずかに高く設計されている。この構造は、速い走行時に安定性を保ちつつ、柔軟なレスポンスを提供し、長時間のトレーニングでも疲労を軽減する工夫が見られる。ASICSの技術進化は、素材の組み合わせにより、トレーニングシューズの限界を押し広げている。
アッパーとアウトソールの特徴
アッパーにはエンジニアードメッシュが採用されており、薄く軽量な素材ながら通気性に優れた構造が特徴だ。このメッシュは、足の動きに追従しつつ、軽さを優先した設計で、トレーニング中の快適さを確保する。踵部分のヒールカウンターは硬質構造を内蔵し、適度な柔軟性を持ちながら踵をしっかりと固定する。パディングは過剰ではなく必要最低限に抑えられており、ロックダウンの安定性を保ちつつ、重量増を避けている。タンは薄い人工スエード素材で、上部にのみ薄いパッドを配置し、シューレースの結び目による圧迫を防ぐ。また、タンの両サイドには伸縮性のある生地が用いられ、ずれを防止しながら着脱のしやすさを向上させている。全体として、アッパーのフィット感は標準的で、足幅や甲の高さが平均的なランナーに適した空間を提供する。一方、アウトソールはASICSGRIPラバーを主に前足部に集中配置し、耐久性を確保している。中足部はミッドソール素材が露出しており、軽量化を図りつつ、ASTROPLATEの弾性を活かした屈曲性を発揮する。この設計は、速いペースでのグリップと耐摩耗性を両立し、トレーニングの多様な路面に対応する。ASICSは、これらの要素を統合することで、シューズ全体の機能性を高め、ランナーのパフォーマンスを支える基盤を築いている。
フィット感と走行テスト
ソニックブラストのフィット感は、トゥボックスが狭すぎず広すぎず、足を快適に包み込む。エンジニアードメッシュの伸縮性が、甲をしっかりとホールドし、トレーニング中の安定性を高める。踵のパディングは控えめだが、走行時に踵のずれや不快感を感じにくく、全体の統一感が良好だ。ただし、ミッドソールの形状により、前足部と踵のつなぎ目にわずかな隆起があり、長距離走行で足底に負担がかかる場合がある。実際の走行テストでは、20kmのLSD(ロングスローディスタンス)を実施し、ペースを徐々に上げて感触を検証した。低速(5分50秒/km)では、下部のFF BLAST MAXの柔らかさが感じられるものの、上部のFF TURBO SQUAREDが硬く感じられ、衝撃吸収が不足する印象だった。距離が10kmを超えると、この硬さが足底の痛みに変わる可能性がある。一方、高速(4分40秒/km)では、反発力が活き、ASTROPLATEの弾性により自然なローリングが生まれ、スピードアップが容易になった。この結果から、ソニックブラストは低速ジョギングより高速トレーニングに適しており、スーパートレーナーとしての特性が明確に現れている。ASICSの設計意図は、インターバルやトラック練習を想定したものであり、ランナーのトレーニングレベルに応じた使い分けを促すものだ。
競合モデルとの比較
ソニックブラストは、プレート挿入型のトレーニングシューズ市場で、BrooksのHyperion Max 3、HokaのMach X2、MizunoのNeo Vista 2、サッカニーのEndorphin Speed 5と競合する。これらのモデルは、各ブランドのトップレーシングシューズで用いられるプレミアムフォームをトレーニング用に落とし込み、デュアル構造のミッドソールを共通とする。ソニックブラストは上部にFF TURBO SQUARED、下部にFF BLAST MAXを配置し、PEBAXプレートを挿入。Hyperion Max 3は上部にPEBAベースのDNA GOLD、下部に窒素注入EVAのDNA FLASH v2を組み合わせ、PEBAXプレートを採用し、構造的に最も類似する。Mach X2もPEBA上部とEVA下部のデュアル構造にPEBAXプレートを備え、安定性を重視。Neo Vista 2は上部に窒素注入フォーム、下部にEVAを置き、ナイロンプレートで耐久性を高める。一方、Endorphin Speed 5はPWRRUN PBフォームの上下にナイロンプレートを挟み、軽量性を追求。これらの違いは、速さと耐久のバランスに表れ、ソニックブラストは高速時の推進力で優位性を発揮する。市場では、これらのシューズがトレーニングの多様性を広げ、ランナーの選択を豊かにしている。
| モデル | 特徴 | 弱点 |
|---|---|---|
| ASICS ソニックブラスト | デュアルミッドソール(FF TURBO SQUARED上部、FF BLAST MAX下部)とPEBAXプレートによる高い反発力、軽量で通気性良好なアッパー | 低速走行時の硬さ、足底の隆起による長距離での負担 |
| Brooks Hyperion Max 3 | DNA GOLDとDNA FLASH v2のデュアル構造、PEBAXプレートで安定した推進力 | 相対的に重い重量、ミッドソール高さが一部のランナーに不向き |
| Hoka Mach X2 | PEBA上部とEVA下部のバランス、PEBAXプレートによるクッション性 | オフセットが低く、馴染みにくい場合あり |
| Mizuno Neo Vista 2 | 窒素注入上部とEVA下部、ナイロンプレートで耐久性重視 | 軽量だが、反発力が控えめ |
| サッカニー Endorphin Speed 5 | PWRRUN PBフォームとナイロンプレートの軽量設計、汎用性高 | ミッドソール高さが低く、クッション不足を感じる可能性 |
スペックまとめ
ソニックブラストのスペックは、トレーニングシューズとしてのバランスを重視したものだ。以下に主な項目をまとめる。
- 重量: 27cm (US9) で約255g
- スタックハイト: 後足部46mm、前足部38mm
- ドロップ: 8mm
- 主な技術: FF TURBO SQUAREDフォーム、FF BLAST MAXフォーム、ASTROPLATE (PEBAXプレート)、エンジニアードメッシュアッパー、ASICSGRIPアウトソール
- 用途: スピードトレーニング、テンポラン、中上級者向け
競合モデルとの比較では、以下のように整理できる。
| 項目 | ASICS ソニックブラスト | Brooks Hyperion Max 3 | Hoka Mach X2 | Mizuno Neo Vista 2 | サッカニー Endorphin Speed 5 |
|---|---|---|---|---|---|
| 重量 | 約255g | 約289g | 約261g | 約264g | 約238g |
| スタックハイト | 46mm / 38mm | 46mm / 38mm | 44mm / 39mm | 46mm / 37.5 | 36mm / 28mm |
| ドロップ | 8mm | 8mm | 5mm | 8mm | 8mm |
| 主な技術 | FF TURBO SQUARED + FF BLAST MAX + PEBAXプレート | DNA GOLD + DNA FLASH v2 + PEBAXプレート | PEBA + EVA + PEBAXプレート | 窒素注入 + EVA + ナイロンプレート | PWRRUN PB + ナイロンプレート |
| 特徴 | 高速時の反発力重視 | 安定性と耐久性のバランス | クッションと軽量の融合 | 耐久性優先の構造 | 軽量で汎用性高 |
| 弱点 | 低速時の硬さ | 重量が重め | オフセット低め | 反発控えめ | クッション薄め |
良い点と悪い点
ソニックブラストの強みと弱みを整理すると、以下のようになる。
良い点
- 高速走行時の優れた反発力と推進効率
- 軽量で通気性の高いアッパーによる快適さ
- PEBAXプレートの弾性による自然なローリング
- トレーニングの多様性に対応したデュアルミッドソール
悪い点
- 低速ジョギング時の硬さと衝撃吸収の不足
- 長距離で足底に痛みが生じやすい隆起形状
- 初心者にはハードルが高い専門性
改善点としては、ミッドソールの形状をさらに洗練し、低速時の柔軟性を高めることが考えられる。また、アッパーのパディングを微調整すれば、幅広いランナーに対応しやすくなるだろう。
結論
ASICS ソニックブラストは、ブラストシリーズの完成形として、スピードトレーニングの新たなスタンダードを提案するモデルだ。軽量性と反発力を活かした設計は、中上級者の日常トレーニングを効率化し、競合モデルとの比較でも独自のポジションを確立している。ただし、低速時の硬さが課題であり、使用シーンを選ぶ必要がある。全体として、ASICSのイノベーションは、ランニングシューズ市場の多様性を高め、個々のランナーが最適なツールを選択できる環境を整えている。将来的には、こうした技術進化が、業界全体のトレーニング基準を向上させ、より包括的なランニング文化を育むだろう。ランナーは自身の目標に合わせてこのシューズを検討し、持続可能なパフォーマンス向上を目指すべきだ。
参考資料