ランニングシューズの分野で、Brooksは長年にわたり革新的な製品を展開してきた。今回取り上げるHyperion Elite 5は、同社のハイエンドレーシングモデルとして、2025年にアップデートされた最新版だ。このシューズは、前モデルであるHyperion Elite 4 PBからさらに進化を遂げ、ミッドソールの素材強化や独自のカーボンプレート技術を採用している。レビューでは、デザインの変更点から実際のランニング体験までを詳しく検証し、競技志向のランナーにとっての価値を探る。Brooksの開発哲学である「レースレディイノベーション」を体現したこのモデルは、軽量性と反発力を両立し、フルマラソンや短距離レースでのパフォーマンス向上を目指すものだ。
概要
Brooks Hyperion Eliteシリーズは、2018年の初代リリース以来、レーシングシューズのスタンダードを追求してきた。Hyperion Elite 5は、このシリーズの最新作として、ミッドソールのDNA GOLDフォームを基盤に、軽量化と弾力性の向上を実現している。開発の背景には、Brooksの長年の研究と、ARRIS Composites社との連携がある。このシューズは、日常のジョギングから本格的なレースまで対応可能だが、特に高速走行時のレスポンスを重視した設計が特徴だ。全体として、従来モデルからのフィードバックを反映し、快適さと耐久性を高めている。ランナーが求めるバランスの取れた性能を、技術的な洗練を通じて提供する点が、このモデルの強みと言えるだろう。
- スペック
- 重量: 201g (US Men’s 9 / 27cm)
- スタックハイト: ヒール40mm、フォアフット32mm
- ドロップ: 8mm
- ミッドソール素材: DNA GOLD (窒素注入100% PEBAフォーム)
- アッパー素材: TPU WOVEN UPPER
- アウトソール: SpeedTack軽量ラバー
- サイズ展開: 235-300mm (男女兼用対応)
デザインの特徴
Hyperion Elite 5のデザインは、前モデルから一新された視覚的なインパクトが強い。特に目を引くのは、ミッドソールの中央部に配置された大型のバブル状カットアウトだ。この形状は、単なる装飾ではなく、機能性を考慮したものだ。Brooksのデザインチームは、足底の圧力マップを分析し、圧力の少ない外側と内側部分を大胆にくり抜くことで軽量化を実現した。同時に、このバブル構造は上下のフォームが接触する際に追加の反発力を生み出す仕組みとなっている。全体のシルエットはスリムでエアロダイナミックを意識し、レース時の空気抵抗を最小限に抑える工夫が見られる。カラーリングもシンプルながら、DNA GOLDフォームの黄金色がアクセントとなり、モチベーションを高める効果がある。このデザインの進化は、Brooksがレーシングシューズの美学と実用性を融合させた好例だ。
- 特徴
- 大型バブル状カットアウトによる軽量化と反発力強化
- 窒素注入PEBAフォームの採用で最軽量・最柔軟・最高反発を実現
- アッパーの粗いメッシュ構造で優れた通気性
- ヒールカウンターの強化パッドでフィット感向上
- 軽量ラバーアウトソールの戦略的配置
ミッドソールの進化
ミッドソールはHyperion Elite 5の核心部分であり、Brooksが誇るDNA GOLDフォームが全面的に採用されている。このフォームは100% PEBAベースで窒素を注入したもので、Brooks史上最も軽く柔らかい素材として位置づけられる。前モデルHyperion Elite 4 PBと比較して、フォームの使用量が8%増加した点が注目される。これにより、クッション性とエネルギー返還率が向上し、長距離走行時の疲労軽減に寄与している。構造的には、上部と下部のフォーム間にカーボンプレートを挟み込み、バブル形状の接触点で弾力を最大化する設計だ。この進化は、単なる素材変更ではなく、ランナーのバイオメカニクスを考慮したものだ。低速走行時には衝撃吸収を優先し、高速時には反発を強調する二重の役割を果たすため、多様なペースに対応しやすい。Brooksの研究チームは、このミッドソールをHyperion Max 3などの他のモデルにも展開しており、ブランド全体の技術基盤を強化している。
良い点
- フォーム使用量の増加でクッションと反発のバランスが向上
- バブル構造による追加の弾力性
- 軽量ながら耐久性が高いPEBA素材
悪い点
- 低速時の一部ランナーでは反発が控えめに感じられる場合がある
カーボンプレートの技術
Hyperion Elite 5に搭載されたSPEEDVAULT RACE+カーボンプレートは、ARRIS Composites社との共同開発による革新的な要素だ。このプレートは従来のカーボンとは異なり、多数の穴を開けることで軽量化を実現しつつ、必要な剛性を維持している。3Dプリンティング技術を活用したAdditive Moldingにより、各サイズごとに剛性をカスタマイズ可能で、大量生産ながらパーソナライズされた性能を提供する。プレートの柔軟性は中程度で、ナイロンプレートより硬く、フルカーボンより柔らかいバランスが取れている。これにより、低速から高速への移行がスムーズになり、ギアチェンジのような感覚を生む。Brooksは、この技術をHyperionシリーズの未来像として位置づけ、競合他社との差別化を図っている。プレートの穴あきデザインは、重量削減だけでなく、空気の流れを考慮した機能性も兼ね備えており、全体のシューズ重量を抑える鍵となっている。
- 特徴
- 穴あきデザインのカーボンプレートで軽量と剛性の両立
- サイズ別カスタマイズによる最適剛性
- 3Dプリンティング技術の採用で大量生産対応
アッパーの素材とフィット感
アッパー部分の最大の変更点は、TPU WOVEN UPPERの導入だ。この素材はゴムとプラスチックの特性を併せ持ち、弾力性と耐久性を高めている。前モデルのメッシュニット上部と比較して、光沢があり粗い網目構造が特徴で、通気性が大幅に向上した。耐久性が高いため、繰り返しの使用による破損の心配が少ない。フィット感については、トゥボックスの幅やアッパーの高さが前モデルとほぼ同等だが、ヒール周りのパッドを強化したことでロックダウンが改善されている。舌部分は片側固定式で、着脱しやすく、シューレースの圧力を分散するパッドを内蔵。全体として、レース時の快適さを優先しつつ、Brooksのサポート性を維持した設計だ。このアッパーの進化は、高温多湿な環境でのランニングを考慮したもので、息苦しさを軽減する効果が期待できる。
良い点
- TPU素材の耐久性と弾力性で長持ちする
- 粗いメッシュによる優れた通気性
- 強化パッドでフィット感と一体感向上
悪い点
- 初めは光沢感が硬く感じられる可能性
ランニングパフォーマンス
実際のランニングテストでは、Hyperion Elite 5の多段階的なテクスチャーが際立った。低速ジョギング(5分40秒/kmペース)では、クッションシューズのような衝撃吸収と適度な反発を感じ、安定性が良好だ。ミッドソールのバブル構造が、足底の圧力を分散し、膝や足首への負担を軽減する。加速時(5分20秒/kmから4分20秒/kmへ)には、反発力が急激に向上し、カーボンプレートの効果が顕在化する。中足部での弾力が強く、推進力が得やすい。スプリント(3分30秒/km)では、プレートの剛性がフルに発揮され、高速維持がしやすくなる。アッパーの通気性は高温環境で特に有効で、足の動きを妨げない弹性が快適さを保つ。全体として、ペース変化に対応する汎用性が高く、Saucony’s IncrediRUNのような粘り気のあるバウンスを感じさせるが、Brooks独自の安定感が加わる。このパフォーマンスは、レース戦略の柔軟性を高め、ランナーの潜在力を引き出すものだ。
- 改善点
- 低速時の反発をさらに調整可能に
- サイズ展開の細分化でフィットを最適化
前モデルとの比較
Hyperion Elite 5は、Hyperion Elite 4および4 PBからのアップデートとして位置づけられる。ミッドソールは共通のDNA GOLDを採用しつつ、使用量の増加で性能を強化。デザイン面ではバブルカットアウトが新しく、軽量化に寄与している。アッパーのTPU素材変更は、耐久性を向上させた点が大きい。比較すると、Elite 4のEVAフォームからPEBAへの移行が4 PBで始まり、5で完成形となったと言える。重量面では、Elite 5が前モデルより軽く、反発力が優位だ。ただし、スタックハイトは共通で、ドロップも同一のため、移行しやすい。
| 項目 | Hyperion Elite 4 | Hyperion Elite 4 PB | Hyperion Elite 5 |
|---|---|---|---|
| 重量 (US Men’s 9 / 27cm) | 221g | 204g | 201g |
| スタックハイト | ヒール40mm、フォアフット32mm | ヒール40mm、フォアフット32mm | ヒール40mm、フォアフット32mm |
| ドロップ | 8mm | 8mm | 8mm |
| 主な技術 | DNA FLASHフォーム、カーボンプレート | DNA GOLDフォーム、改良カーボンプレート | DNA GOLDフォーム(使用量+8%)、SPEEDVAULT RACE+プレート |
| 特徴 | 安定性重視のクッション | PEBAフォームによる反発向上 | バブル構造とTPUアッパーで軽量・耐久性強化 |
| 弱点 | 重量が重めで反発不足 | 通気性がやや劣る | 低速時の反発が控えめ |
この比較から、Elite 5はシリーズの集大成として、軽さと反発の最適化を達成している。Elite 4からの進化は段階的で、ランナーは自分のペースに合ったモデルを選択できる。
Hyperion Elite 5は、Brooksの技術革新を象徴するシューズとして、レーシングシーンに新たな選択肢を提供する。軽量性と反発力のバランスが優れ、特に中高速域でのパフォーマンスが際立つ。競技ランナーには推奨できるが、フィットを確認した上での購入が望ましい。将来的には、このようなカスタマイズ技術が業界標準となり、ランニングの民主化を進めるだろう。Brooksの取り組みは、単なる製品開発を超え、ランナーの可能性を広げるものだ。
参考資料