ナイキのロードランニングラインアップが刷新され、新たなカテゴリとして「レスポンシブクッション」が登場した。このカテゴリは、優れた反発力を重視したシューズ群で構成されており、アイコニックなペガサスシリーズがその中心を担う。今回焦点を当てるペガサス プレミアムは、同シリーズの最高峰モデルとして位置づけられ、革新的なミッドソール技術を搭載。日常のジョギングからペースアップしたランニングまでをカバーする多用途性を目指している。本記事では、このモデルの構造や性能を詳細に分析し、ランナーにとっての価値を探る。
概要
ナイキはロードランニングのラインアップを再編し、レスポンシブクッションという新しいカテゴリを設けた。このカテゴリには、ペガサス 41、ペガサス プラス、そしてペガサス プレミアムの3モデルがラインナップされる。ペガサス プレミアムは、これらの中でプレミアムレベルに位置づけられ、反発力の高いクッションを追求した設計が特徴だ。ミッドソールの革新を中心に、ナイキの最先端技術が集約されており、他の競合ブランドの強力なモデルに対抗できるかを検証する点が重要となる。全体として、このシューズは従来のペガサスシリーズの遺産を継承しつつ、より高度なエネルギー返還を目指している。ランナーの歩行や走行パターンを考慮した均一なサポートを提供し、日常トレーニングの質を向上させる可能性を秘めている。
このモデルは、ナイキのエアズーム技術の進化を体現しており、ミッドソールにフルレングスのエアズームユニットを初めて成形して搭載。従来の化学フォームとは異なり、空気の圧縮と反発を活用した独自のクッションシステムが、歩行から高速ランニングまで対応する柔軟性を生み出す。開発の背景には、コロナ禍でのリモートワーク中に生まれたアイデアがあり、ベイパーフライシリーズのプレート技術を応用した点が革新的だ。こうした技術の融合により、レスポンシブクッションカテゴリ全体の競争力を高めようとするナイキの意図がうかがえる。しかし、実際の使用感では重量やフィット感が課題となり、理想的な反発力を発揮するためのバランスが鍵となる。
ミッドソールの構造と革新
ペガサス プレミアムの革新の中心は、ミッドソールの3層構造にある。最上層にはナイキの誇る軽量で高反発のズームXフォームが配置され、足裏に直接触れる部分で優れたクッション性を発揮する。中間層にはフルレングスの成形エアズームユニットが挿入され、これはナイキ史上初めての試みだ。このユニットは、足底全体をカバーする形で成形されており、ベイパーフライのフライプレートのような曲線を模倣してトランジションをスムーズにする。最下層にはリアクトXフォームが用いられ、従来のリアクトフォームより13%向上した反発力を提供する。この組み合わせにより、ミッドソールは高い耐久性とレスポンシブさを両立している。
エアズームユニットの歴史を振り返ると、2016年のエアズーム オールアウトで部分的に導入されたが、今回のモデルではフルレングス化と成形加工が加わった。開発チームは35種類の形状をテストし、ランナーのフィードバックを基に最適化。人間の歩行や走行パターンの多様性を考慮し、ユニットは体重を均一に分散させる特性を持つ。これにより、ヒールからフォアフットまでの一貫したサポートが実現し、疲労軽減に寄与する。実際のランニングでは、地表面との接触時間が短くなる高速ペースでその効果が顕著だが、重量の影響で低速時とのギャップが生じる可能性もある。この構造は、ナイキのクッション技術の集大成として、競合他社の高反発モデルとの差別化を図っている。
アッパーの設計とフィット感
アッパーにはエンジニアードメッシュが主に使用され、通気性を重視した設計となっている。特に足の甲部分はベイパーフライ3に似た素材を採用し、優れた通気性と軽量性を確保。側面とアーチ部には異なる素材が組み込まれ、サポート性を高めている。全体を360度囲むリフレクティブテープは、夜間の視認性を向上させるが、伸縮性が低いためアッパーの柔軟性を若干制限する。アイレットはトンネル構造でシューレースを通しやすく、デザイン面でも洗練されている。
タンは軽量ながら十分なパッドを備え、形状安定性が高い素材で作られている。これにより、立った状態でも崩れにくく、快適なフィットを維持する。ベンチレーションのためのパンチング加工が上部に施され、空気の流れを促進。カラーパートとヒールカウンターには厚いパッドが入り、ロックダウンを強化。ヒールカウンターには硬質の補強材が広範囲に配置され、かかとの安定性を確保する。着用時のフィットは見た目より広めだが、歩行やランニングで甲部分の硬さが感じられる場合がある。これはタンと接続部の構造やテープの影響で、繰り返しの屈曲動作時に圧迫感を生む可能性がある。全体として、アッパーは機能性とデザインのバランスを取っているが、個人の足型によっては調整が必要だ。
アウトソールの特徴と耐久性
アウトソールはナイキの伝統的なワッフルパターンを基調とし、耐久性とグリップ力を重視した設計だ。フォアフット部はほぼ全面に耐摩耗性の高いラバーを配置し、ヒール部にも十分な面積を確保。ラグの深さと幅が広く、特に外側は広い面積で体重を分散させる。中央部は小さなワッフル形状で柔軟性を保ち、全体として多様な路面に対応する。ミッドフット部にはリアクトXフォームの一部を成形した小さなトレッドを追加し、視覚的にフルトレッドのように見せる工夫が施されている。
このパターンは、深い溝により優れたグリップを提供し、耐久性も高い。ラバー素材の選択により、ウェット路面でのスリップを防ぎ、長距離ランニングの信頼性を高める。全体の構造はミッドソールとの一体感を重視し、トランジションのスムーズさをサポート。使用シーンとして、アスファルトやトラックでの日常トレーニングに適しており、摩耗の少ない設計が長期使用を可能にする。しかし、高重量の影響で高速時の一体感が損なわれる場合もある。このアウトソールは、ペガサスシリーズの耐久性を継承しつつ、プレミアムモデルらしい洗練を加えている。
スペック
- スタックハイト: ヒール45mm、フォアフット35mm
- ドロップ: 10mm
- 重量: 27cm(US9)基準で308g
- 主な技術: ズームXフォーム、リアクトXフォーム、フルレングス成形エアズームユニット
ペガサスシリーズ比較
ペガサスシリーズの3モデルを比較すると、各々の位置づけが明確になる。ペガサス プレミアムは最高峰として先進技術を搭載するが、重量面で課題を抱える。
| 項目 | ペガサス 41 | ペガサス プラス | ペガサス プレミアム |
|---|---|---|---|
| 重量 | 281g | 245g | 308g |
| スタックハイト | ヒール37mm、フォアフット27mm | ヒール35mm、フォアフット25mm | ヒール45mm、フォアフット35mm |
| ドロップ | 10mm | 10mm | 10mm |
| 主な技術 | リアクトXフォーム、エアズームユニット(前後) | ズームXフォーム、フルレングスエアズーム | ズームXフォーム、リアクトXフォーム、成形フルレングスエアズームユニット |
| 特徴 | バランスの取れた日常トレーナー、安定したクッション | 軽量で高反発、速いペース向け | 最高レベルの反発力、3層構造のミッドソール |
| 弱点 | 反発力が中程度 | 耐久性がやや劣る | 重量が重く、フィットに硬さ |
この表から、プレミアムは反発力で優位だが、軽量化の余地があることがわかる。
着用感とランニングパフォーマンス
着用時の第一印象は、見た目のスリムさに対して内部空間が意外に広い点だ。静止状態では快適だが、歩行開始時に甲部分の硬さが目立つ。これはタンとテープの構造によるもので、屈曲時の柔軟性が制限される。10km程度のジョギングでテストすると、低速ペース(5分30秒/km)ではエアズームユニットの独特な反発が感じられ、地面からの跳ね返りが均一だ。しかし、ペースを上げると(4分30秒/km前後)、重量の影響でミッドソールの硬さが強調され、膝や太ももへの負担が増す。
3層ミッドソールの組み合わせは理論上優れているが、実際のランニングでは反発力が期待ほど発揮されない場合がある。地表面接触時間が短い高速域で硬く感じ、自身の筋力で推進する感覚が強い。左右の足でフィットの差が出やすく、高い甲の足では圧迫感が生じる。全体として、ゆったりしたペースのトレーニングに向き、高速インターバルでは限界が見える。この体験は、技術の革新が実用性にどう結びつくかを示す好例だ。
良い点・
悪い点
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良い点- フルレングスエアズームユニットの均一なサポートで、長距離の疲労を軽減。
- 通気性の高いエンジニアードメッシュが快適な着用感を提供。
- 耐久性の高いアウトソールで多様な路面に対応。
- ロックダウンが強く、安定した走行を実現。
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悪い点- 重量が重く、高速ペースで負担が増す。
- アッパーの硬さが歩行やランニング時に圧迫感を生む。
- 反発力が低速時と高速時のギャップが大きい。
- フィットが個人の足型に依存しやすく、調整が必要。
レスポンシブクッションカテゴリの再編は、ナイキの戦略的な試みだ。ペガサス プレミアムは革新的なミッドソールで反発力を追求するが、重量やフィットの課題が競争力を左右する。日常トレーニング向けとしてバランスが取れているものの、軽量モデルを求めるランナーにはプラスが代替となる。業界全体では、高反発技術の進化が続き、ランニングの効率化を促進するだろう。将来的に、ナイキはこのカテゴリをさらに洗練し、幅広いランナーのニーズに応える可能性がある。ランニングの未来を考える上で、このモデルは一つの指標となる。
参考資料