スウェーデン発のスポーツブランド、クラフトが展開するランニングシューズ「エンデュランス 2」は、日常のトレーニングから中距離ランまで対応するデイリートレーナーとして注目を集めている。このモデルは、ブランドのDNAである機能性とシンプルなデザインを体現し、北欧の合理主義を反映した構造が特徴だ。レビューでは、ブランドの背景からシューズの詳細な性能までを検証し、ランナーが求める快適さと耐久性をどのように実現しているかを探る。日常使いのシューズとして、どのように進化を遂げたのかを紐解いていく。
ブランド概要
クラフトは1974年にスウェーデンで創業したスポーツブランドで、元々はアンダーウェアの開発からスタートした。創業者であるアンデルス・ベングトソンは、体から発生する水分を素早く排出する素材の追求に注力し、繊維間の空間を利用した浸透圧原理を活用した機能性素材を生み出した。この技術は、現在もブランドの基盤となっており、吸湿速乾性を高めたベースレイヤーから始まり、セカンドレイヤーの保温機能、そしてアウターまで製品ラインを拡大している。クラフトのロゴは6つの汗の滴を象徴し、スポーツにおけるパフォーマンス向上を表している。現在、ブランドはランニング、サイクリング、クロスカントリースキーの3分野に集中し、特にランニング部門ではロードからトレイルまで幅広いシューズを展開している。北欧の文化を反映したデザインは、シンプルでミニマルな美学と実用性を重視し、長時間の使用でも疲れにくい製品を生み出している。このアプローチは、スウェーデンを代表するブランドであるイケアやボルボの機能優先主義と共通する点が多く、クラフトのシューズも日常のランニングシーンでその真価を発揮する。
歴史と背景
クラフトの起源は、1970年代のスウェーデンにおけるスポーツウェアの革新にある。当時、スポーツ中の汗の処理が課題となっており、ブランドは繊維技術を駆使して解決策を模索した。原糸間の微細な空間を活用し、汗を素早く外側へ排出する仕組みは、後の機能性アパレル業界に影響を与えた。ランニングシューズへの進出は比較的最近だが、ブランドの蓄積された素材開発ノウハウが活かされている。エンデュランス 2は、そんな歴史の中で生まれたモデルで、ロードランニングを中心に設計された。北欧の長い冬と室内中心の生活様式が、製品の耐久性と快適性を高める基盤となっている。デザイン面では、無彩色を基調とした明るいパターンやカラーを採用し、視覚的な新鮮さを与えつつ、機能の本質に忠実だ。この背景は、シューズの各パーツに反映されており、ランナーの日常を支える実用性を追求している。
スペック
エンデュランス 2の基本仕様は、日常トレーニングに適したバランスの取れた設計となっている。ミッドソールの高さはヒール部が38mm、フォアフット部が29mmで、ドロップは9mmだ。 重量は27cm(US9)サイズで約245gと、スタックの高さを考慮すると軽量に抑えられている。 これらの数値は、ランナーが長距離を走る際の負担を軽減するよう計算されている。
- ミッドソール: PXフォーム(TPUベース)、高反発で軽量。
- ドロップ: 9mm。
- スタックハイト: ヒール38mm、フォアフット29mm。
- 重量: 27cm(US9)で245g。
- アウトソール: 耐久性のあるラバー、ミニマルなトレッドパターン。
- インソール: 6mm厚、六角形の穿孔加工で通気性向上。
- アッパー: エンジニアードメッシュ、ワンピース構造。
これらのスペックは、ブランドの素材開発の成果を凝縮したもので、日常のジョギングからインターバルトレーニングまで対応可能だ。
特徴
エンデュランス 2の最大の特徴は、ミッドソールに採用されたPXフォームにある。この素材はTPUを基調とし、ビード状の構造が軽さと反発力を両立させる。従来のEVAフォームに比べて密度が低く、20%以上の軽量化を実現しているため、長時間のランでも足への負担が少ない。フォーム内部にプレートを挿入せず、全体をPXフォームで構成することで、自然な柔軟性を保っている。アッパーはエンジニアードメッシュのワンピース構造で、内側はニットのような柔らかい素材、外側は細いナイロンで補強されており、足のフィット感を高めている。ヒールカウンターは堅牢で、足首のロックダウンを確実にしつつ、パディングは適度な厚さで快適さを確保。タンは独自の柔軟素材を使用し、左右のストレッチパーツが足の甲を優しく包み込む。アウトソールは耐久性の高いラバーで、トレッドはほとんどなく、ロード向きのフラットなデザインだ。インソールには六角形の穿孔が施され、衝撃吸収と通気性を向上させ、表面に柔らかいファブリックを貼ることで水疱防止を図っている。これらの要素が融合し、北欧デザインのシンプルさと機能性が調和したシューズとなっている。
- ミッドソールの柔軟性: 走行中の衝撃をソフトに吸収。
- アッパーの快適さ: 足の動きに追従する伸縮性。
- アウトソールの耐久: 硬めのラバーで長寿命。
- インソールの工夫: 穿孔とソフト素材で通気・快適。
- 全体のバランス: デイリートレーナーとしての汎用性。
この特徴は、ランナーの日常を考慮した実用的な設計を体現している。
良い点
エンデュランス 2の強みは、走行中の安定した快適さに集約される。まず、ミッドソールのPXフォームがもたらすソフトなクッション性は、距離が伸びても疲労を蓄積しにくい。テストでは、5kmから10kmのランでペースを徐々に上げても、初期の柔らかさが持続し、足の負担が最小限に抑えられた。反発力は過度に強くなく、自然な推進力を提供するため、日常のトレーニングに適している。アッパーのフィット感も優れており、トゥボックスは適度なスペースを確保し、幅広すぎず狭すぎない形状が多くの足型にマッチする。ヒール部はしっかり固定され、走行中のずれを防ぐ。インソールの穿孔デザインは汗の排出を助け、長時間の使用でも快適さを維持する。全体として、北欧の機能主義が活きたシューズで、シンプルな外観ながら実用性が高い。
- 持続的なクッション: 距離が増えてもソフトさが変わらない。
- 快適なフィット: 足の形状に適応しやすい。
- 軽量設計: 高スタックながら負担が少ない。
- 耐久性: アウトソールのラバーが長持ち。
- 通気性: インソールの工夫で蒸れにくい。
これらの点は、デイリーランナーにとって信頼できるパートナーとなる。
悪い点
一方で、エンデュランス 2にはいくつかの改善の余地がある。タンの上部が走行中に足首に軽く当たる感覚があり、静止時は気にならないが、歩行やランで微妙な違和感を生む場合がある。これはパディングの配置や素材の柔軟性に関連する可能性が高い。また、アウトソールのトレッドパターンがミニマルすぎるため、ウェットコンディションや軽いトレイルではグリップが不足する恐れがある。ミッドソールの反発力は穏やかだが、ハイペースのスピードワークでは物足りなさを感じるランナーもいるだろう。全体の重量は軽量だが、超軽量モデルと比較すると中庸的で、長距離ウルトラではやや重く感じるかもしれない。これらの点は、ロード中心のデイリートレーナーとしての位置づけを考慮すれば許容範囲だが、汎用性をさらに高めるための調整が望まれる。
- タンの違和感: 足首への軽い接触。
- グリップの限界: フラットなアウトソールで滑りやすい場面。
- 反発の穏やかさ: スピード志向には控えめ。
- 重量のバランス: 軽量だが極端ではない。
- 適応範囲: トレイルには不向き。
これらの弱点を理解することで、適切な使用シーンを選べる。
比較分析
エンデュランス 2を他のデイリートレーナーと比較すると、その独自性が浮かび上がる。特に、アシックスのノバブラスト 3との類似点が指摘される。両モデルとも高スタックのクッション性を備え、日常トレーニングに適しているが、ミッドソールの感触に違いがある。エンデュランス 2のPXフォームはソフトで一貫したフィーリングを提供するのに対し、ノバブラスト 3のFF Blast+はよりエネルギッシュな反発を強調する。走行質感では、ノバブラスト 3が2022年のモデルとして軽快さをアピールする一方、エンデュランス 2は北欧らしい控えめな機能性を優先する。以下に両モデルの主なスペックを比較した表を示す。これにより、ランナーは自身のニーズに合った選択が可能になる。
| 項目 | クラフト エンデュランス 2 | アシックス ノバブラスト 3 |
|---|---|---|
| 重量 | 245g (27cm/US9) | 252g (27cm/US9) |
| スタックハイト | ヒール38mm / フォアフット29mm | ヒール37.2mm / フォアフット29.2mm (推定、ドロップ8mm) |
| ドロップ | 9mm | 8mm |
| 主な技術 | PXフォーム (TPUベース) | FF Blast+ フォーム |
| 特徴 | ソフトで持続的なクッション、ミニマルデザイン | エネルギー返還の高さ、軽快な走行感 |
| 弱点 | タンの違和感、グリップ不足 | 耐久性のばらつき、幅の狭さ |
この比較から、エンデュランス 2は安定志向のランナーに向き、ノバブラスト 3はペースアップを求める場合に優位だ。アドレナリンのブースト素材やニューバランスのフレッシュフォームとも類似するが、クラフトのモデルは密度の低いフォームで差別化を図っている。これらの違いは、ランニングシューズ市場の多様性を示しており、ブランドごとの哲学が性能に直結する。
結論
クラフト エンデュランス 2は、北欧の機能主義を体現したデイリートレーナーとして、日常のランニングを支える信頼できる選択肢だ。PXフォームのソフトなクッションとシンプルなデザインが、疲労の少ない走行を実現し、幅広いペースに対応する。良い点として持続的な快適さと耐久性が挙げられる一方、悪い点のタンの違和感やグリップの限界は、使用環境を考慮すれば克服可能だ。アシックス ノバブラスト 3との比較でも、独自のバランスが光る。このシューズは、ランニング業界のトレンドである高スタックと軽量性を、北欧らしい実用性で再解釈した好例であり、将来的にはさらに素材の進化が期待される。ランナーは自身の足型と目的に合わせて選ぶことで、より充実したトレーニングを享受できるだろう。
参考資料