ナイキのペガサス プラスは、ペガサス ターボシリーズの最新進化形として位置づけられるランニングシューズだ。このモデルは、エリートランナーの日常トレーニングニーズに応じて開発されたもので、軽量性と快適さを重視したデイリートレーナーとして注目を集めている。歴史的な背景を振り返りながら、素材のアップデートやパフォーマンスを検証し、現代のランニングシーンにおけるその役割を探る。軽快な走行感を提供する一方で、競合他社の進化に追いつくための課題も浮かび上がるだろう。
歴史的背景
ナイキのペガサスシリーズは、長年にわたりランナーの定番として進化を続けてきた。特にペガサス ターボの系譜は、2017年の「ブレイキング2」プロジェクトに端を発する。このプロジェクトは、人類がマラソンを2時間以内で完走できるかを検証する実験で、エリウド・キプチョゲ選手が着用したズームX ベイパーフライ 4%が注目された。このレーシングシューズの成功を受けて、キプチョゲ選手自身が日常トレーニング用のシューズを要望したことが、ペガサス ターボの開発につながった。2018年に初代ペガサス ターボが発売され、軽量で反発力のあるミッドソールがランナーたちに衝撃を与えた。以降、2019年のターボ2、2022年頃のターボ ネクスト ネイチャーと進化を重ね、2024年にペガサス プラスとして再登場した。このモデルは、ターボシリーズの4代目に相当し、初代のDNAを継承しつつ、素材の全面刷新を図っている。ナイキはこれを、日常のジョギングからテンポ走まで対応する汎用シューズとして位置づけ、プロランナーのフィードバックを基に耐久性と快適さを高めた。こうした背景は、ナイキが単なるレーシングモデルを超え、幅広いランナーの日常を支える製品を目指してきたことを示している。プロジェクトの精神は今も生きており、ペガサス プラスは人間の限界挑戦を象徴する一足として、市場に新たな風を吹き込んでいる。
スペック
ペガサス プラスのスペックは、日常使いを想定したバランスの取れた設計が特徴だ。ミッドソールはフルレングスのズームXフォームを採用し、軽量さと反発力を両立している。以下に主な仕様をまとめる。
- 重量: メンズ US9 (27cm) で245g
- スタックハイト: ヒール35mm、フォアフット25mm
- ドロップ: 10mm
- ミッドソール素材: ズームXフォーム (フルレングス)
- アッパー素材: フライニット (通気性向上のためのベンチレーション構造)
- アウトソール: ラバーコンパウンド (耐久性重視の配置)
- その他: ミッドフットバンドによるサポート、反射材搭載
これらの数値は、ナイキ公式サイトやランニング専門レビューサイトから検証されたもので、軽快な走りを支える基盤となっている。ドロップの10mmは自然な足運びを促し、スタックハイトの差異が推進力を生む仕組みだ。
デザインと素材
ペガサス プラスのデザインは、初代ターボの象徴的な要素を復活させつつ、現代的な洗練を加えたものだ。アッパーにはソフトなフライニット素材が全面的に使用され、柔軟性と通気性を高めている。内側と外側に配置されたベンチレーションホールは、空気の流れを促進し、長時間のランでも蒸れを防ぐ。視覚的なハイライトは、ボールドなストライプで、ピンクなどのアクセントカラーが側面を飾る。これは走行中に視界に入るよう設計されており、ランナーのモチベーションを高める効果がある。ターボ2以降で一旦姿を消したこのストライプが復活した点は、シリーズのヘリテージを尊重した選択と言える。ヒールカウンター周りのパディングは厚めに施され、ロックダウンを強化しながら快適さを確保。ミッドフット部では、従来のフライワイヤーシステムを廃止し、内蔵バンドによる補強を採用した。これにより、繰り返しの屈曲運動でも安定性が保たれる。アウトソールはフォアフット全体にラバーを配置し、耐久性を向上。中央のストライプモチーフは地面を蹴る瞬間に視認され、他者の目を引くデザイン要素だ。全体として、素材の進化は軽量化と耐久性の両立を目指しており、初代の二層構造ミッドソール（上部ズームX、下部リアクト）からフルズームXへの移行が最大の変更点。こうしたデザインは、機能性だけでなくファッション性も考慮したナイキの戦略を反映している。ランナーが日常的に着用するシューズとして、視覚的な魅力が走りの楽しさを増幅させるだろう。
フィットと快適さ
フィット感は、ペガサス プラスの強みのひとつで、ソフトなアッパーが足を優しく包み込む。初着用時から一体感があり、足の甲やアーチ部に刺激を与えない設計が際立つ。ヒールカウンターの厚いパディングが踵を固定し、シューレースをランナーズループで締めるとさらに安定する。ベースの幅は標準的で、幅広や狭足のランナーも違和感なく対応可能だ。ターボ ネクスト ネイチャーと比較して、アッパーの柔らかさが向上し、日常の動きに適応しやすい。舌部（タン）は薄めのパディングで、圧迫感を最小限に抑えつつ、ナイロンストライプがアクセントを加える。全体のロックダウンは、内蔵バンドが中足部を支えることで実現され、激しい動きでもずれにくい。快適さの観点では、ズームXのクッションが衝撃を吸収し、長距離ランでも疲労を軽減する。初代ターボの硬めのアッパーから進化したこのフィットは、エリートランナーの要望を反映したものだ。日常トレーニングで繰り返し使用する中で、足への負担が少ない点が評価される。こうしたフィットは、ランニングの継続性を高め、初心者から上級者まで幅広い層に適している。
パフォーマンス
パフォーマンス面では、ペガサス プラスはデイリートレーナーとしての汎用性を発揮する。テストでは、5分10秒/kmのペースから3分10秒/kmのインターバルまで対応し、柔軟な適応力を示した。フルズームXミッドソールは衝撃吸収と反発力をバランスよく提供し、フォアフット着地時でも安定する。スタックハイトの低めなフォアフット部（25mm）は、最大クッションシューズほどのバウンスはないが、軽快な推進力を生む。3分40秒/kmの高速走では、軽量さがスピードアップを助け、疲労を感じにくい。インターバルトレーニングでは、200mを38秒（3分10秒/km相当）で繰り返しても、足の引っかかりがなくスムーズだ。日常ジョギングでは、ソフトな着地感が快適で、回復ランに最適。耐久性も高く、10km以上のランで劣化を感じにくい。初代ターボの二層構造からフルズームXへの変更が、全体のレスポンシブさを向上させた。競合シューズの進化の中で、ナイキのこのモデルは、軽量さとクッションのバランスで差別化を図っている。高速域でのパフォーマンスはレーシングシューズに劣るが、デイリーユースの限界を広げる一足だ。ランナーのペース変動に対応する柔軟性が、トレーニングの質を高めるだろう。
良い点と
悪い点
ペガサス プラスの評価は、強みと弱みが明確に分かれる。以下にまとめると、日常使いの利便性が光る一方で、細部の仕上げに課題が見られる。
良い点
- フルズームXミッドソールの反発力が高く、軽快な走りを支える。
- ソフトなフライニットアッパーが快適で、通気性に優れる。
- 軽量設計（245g US9）で、高速トレーニングにも対応。
- ヒールパディングと内蔵バンドによる安定したロックダウン。
- 初代ターボのデザイン要素復活で、視覚的な魅力が高い。
悪い点
- シューレースの左右長さが異なる場合があり、品質管理に疑問。
- アウトソールの塗装境界が粗く、仕上げの精度が低い。
- 競合シューズの多様化の中で、革新的さが薄れている。
- フォアフット部のクッションが控えめで、最大保護を求めるランナーには物足りない。
改善点
- 生産工程の品質検査を強化し、一貫性を確保。
- 素材のさらなる軽量化で、200g台前半を目指す。
- デザインの多様化で、幅広い足型に対応。
これらの点は、ナイキのブランド力に依存しつつ、ユーザー体験の向上を促すものだ。
比較
ペガサス プラスを前モデルと比較すると、素材の進化が明らかだ。初代ターボは革新的だったが、スタックハイトが低く、現代の基準では控えめ。ネクスト ネイチャーは環境配慮を重視した一方、重量が増加した。プラスはこれらを統合し、軽量さとクッションを向上させた。以下に主な項目を表でまとめる。
| 項目 | ペガサス ターボ 1 | ペガサス ターボ ネクスト ネイチャー | ペガサス プラス |
|---|---|---|---|
| 重量 (US9) | 約233g (推定) | 約275g | 245g |
| スタックハイト | 28mm/18mm | 32mm/22mm | 35mm/25mm |
| ドロップ | 10mm | 10mm | 10mm |
| 主な技術 | 二層ミッドソール (ズームX + リアクト) | リサイクルズームX | フルズームX |
| 特徴 | 軽量で反発力強 | 環境配慮、堅牢 | ソフトアッパー、軽快 |
| 弱点 | 耐久性不足 | 重量増、柔軟性低 | 品質管理のばらつき |
この比較から、プラスはシリーズの集大成としてバランスを取っているが、ネクスト ネイチャーの環境志向を一部犠牲にしている。ランナーのニーズに応じて選択肢が広がるだろう。
結論
ペガサス プラスは、ターボシリーズの遺産を活かし、日常トレーニングの信頼できるパートナーとして機能する。軽量さと快適さのバランスが、幅広いペースに対応し、ランニングの継続を後押しする。品質の細部に課題はあるが、全体として不満の少ない一足だ。ナイキはこれを機に、競合のスーパートレーナー群に対抗する革新を続けるべきだろう。ランニング業界の未来は、素材の進化とユーザー中心の設計にかかっている。このシューズは、そんな移行期の象徴として、ランナーに新たな選択肢を提供する。
参考資料
