アディダス テレックス アグラビック スピード ウルトラは、ウルトラトレイルランナー向けに設計された高性能シューズとして注目を集めている。このシューズは、極めて長い距離を高速で走破することを目的に開発され、プロアスリートのフィードバックを基に洗練された技術が投入されている。トレイルランニングの過酷な環境で耐久性とスピードを両立させる点が特徴で、従来のロードランニングシューズとは異なるアプローチが見られる。本記事では、その背景から構造、パフォーマンスまでを詳しく考察し、トレイルランニングの進化を紐解く。
概要
アディダス テレックスラインは、アウトドアアドベンチャーを対象としたサブブランドであり、トレイルランニングやクライミングなどの活動に適した製品を提供している。このアグラビック スピード ウルトラは、その中で最も高速志向のモデルとして位置づけられる。ウルトラトレイルレース、例えば160kmを超える距離を1日以内に完走するような競技で、トップランナーが podium に立つためのツールとして生み出された。開発プロセスでは、2022年から2023年にかけ、約20名のエリートアスリートがテストに参加し、デザインから素材選定までを繰り返し検証した結果が反映されている。このシューズの核心は、長い距離を耐え抜く耐久性と、速さを追求した推進力のバランスにある。トレイルの多様な地形に対応しつつ、軽量性を保つことで、ランナーのパフォーマンスを最大化する設計が施されている。
開発背景
このシューズの開発は、アディダスがスポンサーするウルトラトレイルランナーたちの実戦データに基づいている。特に、トム・エヴァンスのような著名なアスリートが関与し、ウェスタン・ステイツ・エンデュランス・ラン(160kmの歴史あるレース)で新記録を樹立した際に着用したプロトタイプが基盤となった。このレースは、雪山、泥地、岩場など多様な地形を横断するもので、シューズの耐久性とグリップ力が厳しく試される。エヴァンスは14時間40分21秒という50年ぶりの最高記録を達成し、その過程でシューズのフィードバックを提供した。アディダスはこうしたトップアスリートの経験を活かし、コンセプトデザインからミッドソールのジオメトリ、全体構造までを最適化。結果として、ウルトラ距離で1位を目指すランナー向けの「最速のトレイルシューズ」が完成した。この背景は、単なる製品開発ではなく、アスリートとの協業による進化の物語を示している。
デザインと構造
シューズの全体デザインは、ウルトラトレイルの特性を考慮したものだ。フォアフット部は広く設計され、ミッドフットは狭く絞り込まれている。これは、フォアフットランニングを重視するエリートランナーの走法に適応した形状で、安定性を高めつつ、速いペースを維持しやすくしている。ヒール部も比較的狭く、軽量化を図るために余分な構造を削減。ヒールカウンターは柔軟な素材を使用し、硬いパーツを排除することで、トレイルの不規則な地形での足首の動きを妨げない。代わりに、ミッドソールの素材をヒールカップまで延長し、足のかかと骨を包み込むようにサポート。これにより、軽量性を保ちながら安定感を提供する独自の構造を実現している。全体として、耐久性とスピードの両立を追求したデザインは、トレイルランニングのダイナミズムを体現している。
ミッドソール技術
ミッドソールには、アディダスのライトストライクプロフォームが全面的に採用されている。これは、ロードランニングのアドイズェロ アディオス プロ 3でも使用される素材で、軽量性と反発力が特徴だ。トレイルランニングではロードのようなスタックハイト制限がないため、ヒール部42mm、フォアフット部34mmという厚めの設計が可能となり、クッション性を確保している。ドロップは8mmで、ウルトラ距離での疲労軽減に寄与する。上層と下層の間にエナジーロッドと呼ばれるプラスチック製のロッドを挿入し、推進力を高めている。これはカーボンプレートに代わる選択で、長距離での負担を軽減する工夫だ。素材の復元力が高く、左右のひねりに対する安定性も優れているため、岩場や泥地での走行でも信頼性が高い。この技術は、トレイルの厳しい条件でスピードを維持するための鍵となっている。
アウトソールとグリップ
アウトソールにはコンチネンタルラバーを使用し、優れたグリップ力を発揮する。ラグの高さは中央部2.5mm、外側3.5mmと差をつけ、多様な地形に対応。フォアフット部にラグを集中配置することで、速いペースでの推進を助けている。この設計は、泥、岩、湿地などトレイルの変幻自在な表面で耐久性を保ち、160kmのレースでも摩耗を最小限に抑える。内耐久性が高く、エリートランナーが1位を狙うほどの信頼性を備えている。全体の構造が軽量でありながら、地面との接地面積を最適化し、安定した走行を実現。トレイルランニングの核心である地形適応性を、このアウトソールが支えている。
アッパーとフィット
アッパーにはオープエアメッシュ素材を採用し、通気性を高めている。素材自体は若干硬めで、長距離耐久性を考慮した選択だ。内部には補強材を融着し、足の甲部をサポート。トゥプロテクションとしてTPUコーティングを施し、岩や根に対する保護を強化している。タンは薄くストレッチ素材で固定され、左右の動きを防ぐ。シューレースは突起付きで、緩みにくく設計されている。フィット感は、ミッドフット部がしっかりと足をホールドし、フォアフットは広めで安定。ヒール部は若干緩めだが、トレイルの不規則な動きに対応するための柔軟性だ。このアッパーは、軽量と耐久のバランスを追求し、ウルトラレースでの快適性を提供する。
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スペック
- 重量: 259g (メンズ US9 / 27cm)
- スタックハイト: ヒール 42mm / フォアフット 34mm
- ドロップ: 8mm
- ラグ深さ: 2.5mm - 3.5mm
- アウトソール: コンチネンタルラバー
- ミッドソール: ライトストライクプロ + エナジーロッド
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特徴
- ウルトラ距離向けの耐久性とスピードの融合
- エリートアスリート主導の開発
- 軽量ながら高いクッション性
- 多地形対応のグリップ力
- 通気性に優れたアッパー
パフォーマンスと着用感
着用時のフィットは、トゥボックスがやや長めに感じるが、ミッドフット部のホールドが強く、ダウンヒル時でも足のずれを防ぐ。足首周りは緩めで、トレイルの多様な動きに適応し、ロードシューズのようなロックダウン感とは異なる快適さを提供する。ライトストライクプロの反発力は、速いペースで顕著に感じられ、ジャンプや急坂での推進を助ける。実際のトレイル(例: 土道、岩場、階段)でテストした結果、安定感が高く、疲労を軽減。ウルトラ距離での耐久性は未検証だが、短中距離では優れたパフォーマンスを発揮した。この着用感は、トレイルランニングの自由度を高め、ランナーの自然な動きを尊重する設計の賜物だ。
| 項目 | アディダス テレックス アグラビック スピード ウルトラ | アディダス アディゼロ アディオス プロ 3 |
|---|---|---|
| 重量 | 259g (US9) | 218g (US9) |
| スタックハイト | ヒール 42mm / フォアフット 34mm | ヒール 37.8mm / フォアフット 29.8mm |
| ドロップ | 8mm | 8mm |
| 主な技術 | ライトストライクプロ + エナジーロッド | ライトストライクプロ + エナジーロッド |
| 特徴 | トレイル向けグリップと耐久性、多地形対応 | ロードレース向け高速推進、軽量性 |
| 弱点 | テクニカル地形での安定性不足 | ヒールストライカー向きでない |
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良い点- 爆発的なエネルギー返還と推進力
- ウルトラ距離の耐久性
- 通気性と軽量性のバランス
- 多様な地形でのグリップ
- エリートフィードバックによる洗練
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悪い点- ヒールストライカーには不向き
- 幅広足には狭く感じる
- ヒールカラーの改善余地
このシューズは、ウルトラトレイルランニングの未来を象徴する存在だ。耐久性とスピードの両立により、ランナーの限界を押し広げ、業界全体の技術進化を促す可能性を秘めている。トップを目指すランナーには強く推奨されるが、地形や走法に合わせて選択すべきだろう。将来的には、さらに多様なモデルが登場し、トレイルランニングの裾野を広げるはずだ。
参考資料