ASICSのスーパーブラストシリーズは、非プレート型のスーパーシューズとして市場に新しい選択肢をもたらしたモデルだ。第3世代となるスーパーブラスト3は、前作からの大幅な進化を遂げ、MetaSpeedシリーズで実績を積んだFF Leapフォームをメインに採用。柔らかさと高いエネルギーリターンを両立しつつ、軽量化と安定性を高めたことで、長距離トレーニングからテンポ走まで幅広い用途に対応する多用途性をさらに強化している。このアップデートは、単なる素材変更にとどまらず、シューズ全体の設計思想を見直した結果生まれたもので、ハイスタックながらも実用的な走行感を提供する点が特徴だ。
概要
スーパーブラスト1が登場した際は、プレートなしでレース級のフォームを日常トレーニングに持ち込むという斬新なコンセプトが注目を集めた。プレートを排除することで、幅広いランナーが違和感なく使える汎用性を狙ったこのアプローチは、すぐに支持を獲得した。第2世代では素材の微調整とアウトソールの改善が行われ、着実な進歩を果たしたが、第3世代ではより大胆なステップを踏んでいる。
最大の変更点は、トップレイヤーにFF Leapを導入したことだ。このフォームは軽量で柔らかく、優れたエネルギー返還性を備える。一方、ボトムには10mm厚のFF Blast Plusを配置し、耐久性と構造的な安定性を確保。全体として前作比で約10gの軽量化を実現しながら、フォアフットでのエネルギー返還を15%向上させた。スタックハイトはヒール46.5mm、フォアフット38.5mm、ドロップ8mmとわずかに増加したが、重心移動のスムーズさと保護性を損なうことなく進化を遂げている。
これにより、スーパーブラスト3は単なるクッションシューズではなく、保護性を保ちつつ活発なバウンスを提供する「ビデオゲームのチートコード」のような存在として位置づけられる。開発チームは、業界をリードする立場を維持するため、従来の漸進的改善を超えた設計変更を敢行した。
開発プロセスとテスト体制
ASICSの製品開発は、季節ごとのブリーフから始まる。製品マネージャーがコンセプトを設計・開発チームに共有し、材料探索と複数プロトタイプの作成に移行する。スーパーブラスト3の場合、MetaSpeedで実績を積んだFF Leapの可能性に着目し、さまざまなレイヤー構成やジオメトリーを試作。開発チームは世界最高レベルの技術力を発揮し、細部まで徹底的に検証した。
テストは多角的だ。自社スポーツ科学研究所での材料・機械テスト、外部パートナー(Helixなど)との独立検証、ボストンオフィスや全米のテスターによる実走テストを複数ラウンド実施。盲検テストも活用し、開発者の先入観を排除して消費者視点のフィードバックを集めた。スーパーブラストとメガブラストの直接比較など、競合モデルとのベンチマークも行い、エネルギー返還や安定性などの重要指標を定量・定性的に評価した。
特にフォアフットのエネルギー返還に重点を置き、Nova Blast、Sonic Blast、Super Blast、Mega Blastのバウンス量を測定して差別化を図った。このフィードバックループにより、紙面上優位と思われた構成が実走で異なる印象を与えるケースを事前に修正。結果、消費者にとって一貫性のある快適な体験を実現するシューズに仕上がった。
ミッドソールの進化
ミッドソールの設計がスーパーブラスト3の核心だ。前作のTurbo Plus単層から、FF Leap(トップ)とFF Blast Plus(ボトム10mm)の2層構造へ移行。FF Leapは柔らかく軽量で反発性が高く、MetaSpeed由来の最新技術を日常トレーナーに取り入れた点が革新的である。一方、Blast Plusの下層は耐久性と構造的なサポートを提供し、ソフトなフォーム単独では不足しがちな安定性を補う。
ジオメトリー面では、内側アーチ部をわずかに高く配置し、フォアフット側壁を立ち上げて足の収まりを向上させた。これにより、ミッドスタンス時のコントロールが強化される。最大の特徴は「トランポリンポッド」の進化だ。前作では控えめだったダイヤモンド形状のポッドを拡大・強調し、足がフォアフットに乗り込んだ際に地面との接触を活かした反発を生み出す。内部・外部の切れ込みも最適化され、圧縮時のエネルギーを効率的に返還する。
これらの変更により、フォアフットでのエネルギー返還が前作比で15%超向上。全体重量はメンズ27cmで239gと約10g軽減された。ランナーはよりソフトな着地感と明確なバウンスを体感でき、長距離でも疲労を軽減しながらリズムを維持しやすい。ハイスタック特有の不安定さをワイドプラットフォームと強化された側壁で抑え、保護性とレスポンスのバランスを極めた設計と言える。
スペック
- 重量: 239g(メンズ27cm/US9)
- スタックハイト: ヒール46.5mm / フォアフット38.5mm
- ドロップ: 8mm
- ミッドソール: FF Leap(トップ)+FF Blast Plus(ボトム10mm)
- 主な特徴: 拡大トランポリンポッド、15%超のフォアフットエネルギー向上
良い点
- 柔らかさとバウンスの両立で長距離でも快適
- 軽量化によりテンポアップ時の効率向上
- 構造強化でハイスタックでも安定
悪い点
- 極端な高速インターバルにはややボリューム過多
- ソフトフォームゆえの初期沈み込みに慣れが必要な場合あり
アッパーとフィットの改良
アッパーはエンジニアードウーブン素材を継続し、足との一体感を高めた。レースシステムが最大の変更点で、上部3つのアイレットは従来通りパンチホール、下部はコード構造を採用。これにより、長距離走時の足の腫れや前滑りに対応したパーソナライズドフィットが可能になった。コード部分は視覚的なアクセントにもなり、カラー展開の幅を広げている。
タング部の通気孔を拡大し、全体の通気性を向上。トゥボックスは前作より spacious(広め)で、足指周りの圧迫感が軽減された。メッシュの柔らかさも増し、長時間着用時のホットスポット発生を抑える。開発では同じラストを使用しながら素材の伸縮性やフォームのコンプライアンスを考慮し、異なる体感を実現。結果、フィットはより寛容になり、幅広い足型に対応しやすくなった。
デザイン面では「時間的折り畳み(temporal fold)」をモチーフに、宇宙的・高速移動の視覚表現を採用。タイガーストライプやギャラクシー風グラフィックがシューズ全体に動きを与え、機能性と美しさを融合させている。
アウトソールと全体ジオメトリー
アウトソールはフォアフットにタッキーなASICSGRIPラバーを維持し、優れたグリップを確保。中足部ラバー面積をわずかに削減して軽量化に貢献しつつ、グリップ性能はテストで同等以上を確認した。トランポリンポッドに対応したジオメトリーも微調整され、ソフトなトップフォームの圧縮を支えるためベース幅をわずかに広げている。
これにより、着地から推進への移行がスムーズになり、ハイスタックシューズにありがちな横揺れを抑制。全体のロッカー形状は前作を継承しつつ、フォアフットポッドの強調でバウンス感を高めた。耐久性もBlast Plus下層のおかげで長期使用に耐えるレベルを維持している。
走行体験の変化
実際に走ったテスターの感想から、スーパーブラスト3の走行感は前作より明確に進化した。トップのFF Leapが柔軟で沈み込みが増したことで、Blast Plusの下層がより生き生きと伝わり、メディアルアーチ部のクラドリング感が心地よい。フォアフットポッドのバウンスはより顕著で、推進力が自然に生まれる。
イージーペースではリズミカルで保護性が高く、長距離でも足がフレッシュに保たれる。テンポを上げるとフォアフットの返還が効き、効率的な前傾姿勢をサポート。ワイドプラットフォームと強化ジオメトリーにより、46.5mmのハイスタックでも安定感は損なわれず、さまざまなペースで「安心して速く走れる」体験を提供する。前作の構造的な軽快さは残しつつ、ソフトさとバウンスが加わり、日常からロングランまで一足で対応可能な汎用性が際立つ。
ブラストファミリー内の位置づけ
ASICSのBlastラインはバウンスレベルで明確に差別化されている。スーパーブラスト3は「++++」の位置づけで、保護性と汎用性を重視したスイスの軍刀のようなモデルだ。
| 項目 | Nova Blast 5 | Sonic Blast | Super Blast 3 | Mega Blast |
|---|---|---|---|---|
| 重量 (27cm) | 255g | 256g | 239g | 230g |
| 主なミッドソール | FF Blast Max | FF Blast Max + Turbo Squared | FF Leap + Blast Plus | Full Turbo Squared |
| プレート | なし | Astroplate | なし | なし |
| バウンスレベル | ++ | +++ | ++++ | +++++ |
| 用途 | 日常トレーニング | アップテンポ/インターバル | 長距離〜中間ペース多用途 | 高速/プレミアムバウンス |
| 特徴 | バランス重視 | スナッピー | 保護性+汎用性 | 軽量・高反発 |
| 弱点 | 高速で物足りない | 日常では硬め | 極端なレース向きでない | 低速でやや不安定 |
スーパーブラスト3は低速でも効率良く、Mega Blastよりソフトで保護性が高い一方、Megaはより軽く高速域で輝く。Novaはエントリー向け、Sonicはプレートでキレを重視。この差別化により、ランナーは自身のトレーニングスタイルに合った1足を選べるようになった。
結論と業界への示唆
スーパーブラスト3は、非プレートスーパートレーナーの先駆者として業界に与えた影響をさらに深化させた。FF Leapの採用と緻密なジオメトリー最適化により、軽量化と性能向上を両立し、ハイスタックシューズの可能性を広げた。このアプローチは、他ブランドの類似モデルにも影響を与え、プレート依存を超えた多様な選択肢を生み出すきっかけとなるだろう。
ランナーにとって重要なのは、数字ではなく実際の走行体験だ。保護性を保ちつつバウンスを楽しめるこのシューズは、長距離を楽しく走りたい幅広い層に適している。今後もASICSが素材と構造の融合を進めれば、ランニングシューズの未来はますます多様で魅力的なものになるはずだ。スーパーブラスト3は、その進化の象徴として長く語り継がれる1足となるだろう。