アシックスの「スーパーブラスト」シリーズは、2022年の初代モデル登場以来、プレートなしのスーパーシューズというジャンルを独自に切り拓いてきた。2026年3月に発売された第3世代「スーパーブラスト3」は、ブランドの最新フォームであるFF LEAPを搭載し、大幅な刷新を遂げた。しかしその実態は、パフォーマンストレーナーとしての系譜から離れ、マキシマムクッションのデイリートレーナーとしての新たな役割へと舵を切ったことを明確に示している。今回はこのシューズのデモ機を試用し、アシックス担当者との対話も踏まえた上での考察をお届けする。
スーパーブラストシリーズの系譜と誕生の背景
スーパーブラストの起源を理解するには、2020〜2021年に遡る必要がある。当時、アシックスのエンジニアリングチームはメタスピード+シリーズの開発に取り組んでいた。メタスピード スカイ、エッジなどハイプレートおよびロープレート構成の礎となったのはこのシリーズであり、その開発過程でプレートなしのミッドソール配合が数多くテストされた。テスターやアスリートたちはプレートなしのメタスピードを特に長距離走で高く評価した。マラソンペースへのウォームアップとなる長距離ランでの感触が抜群だったからだ。そこから「プレートなしのパフォーマンストレーナー」というアイデアが生まれた。
2022年のメタスピード+シリーズ発表イベントには、開発過程の重要局面を示す5つのプロトタイプが展示されており、そのうちの2点がスーパーブラストの原型を色濃く示している。プロトタイプAはヒールにセカンダリーフォームを用いたスタビリティの探求、プロトタイプBは前足部に大きなロッカーを持つチャンキーなミッドフットという、現在のスーパーブラストに通じるデザインを見せていた。
2022年から2023年にかけて正式発売された初代スーパーブラストは、FF TURBOフォームを搭載した唯一無二の存在として市場に登場した。当時近しいコンセプトを持つシューズはナイキ インビンシブル程度で、市場における希少性が熱狂的な支持を生んだ。2024年のスーパーブラスト2では、より快適なトレーニングフィットとアッパーの改善が施され、広いランナー層に受け入れられた一方、初代が持っていたレーシーなキャラクターはやや後退した。そして2026年、スーパーブラスト3は「コンフォート寄りのマキシマムクッションデイリートレーナー」として明確に位置づけられた。
スペック詳細
| 項目 | スーパーブラスト3 | スーパーブラスト2 |
|---|---|---|
| 重量 | 239g(27cm/US9) | 249g(27cm/US9) |
| スタックハイト(ヒール) | 46.5mm | 45mm |
| スタックハイト(前足部) | 38.5mm | 37mm |
| ドロップ | 8mm | 8mm |
| 主なフォーム | FF LEAP(上層)+FF Blast Plus(下層) | FF Turbo Plus(上層)+FF Blast Plus(下層) |
| 特徴 | ソフト、快適、安定性高 | エネルギッシュ、ファーム、パフォーマンス寄り |
| ライドプロフィール | ソフト | エナジェティック |
スーパーブラスト3は前モデルからヒール・前足部ともに1.5mmスタックハイトが増加し、重量は約10g軽量化された。サイズ感はスーパーブラスト2と同様にトゥルーサイズを推奨。トゥボックスが広くなり、シュータン周辺のボリュームも増したため、よりジェネラスなトレーニングフィットとなっている。
ミッドソール構造の変化とライドの本質
スーパーブラスト3の核心は、ミッドソール構造の根本的な変化にある。上層には、メタスピード レイやメタスピード スカイ/エッジ トウキョウと同じアシックスのプレミアムレーシングフォーム「FF LEAP」が採用された。FF LEAPはA-TPU系の素材で、軽量性・ソフトネス・バウンシネスのバランスに優れ、多くのランナーから「現時点で最高のレーシングフォームの一つ」と評価されている。
しかし問題は下層のフォームにある。前世代のスーパーブラストシリーズでは、下層のFF Blast Plusはあくまで補助的な役割を担い、構成比率はFF Turbo(またはFF Turbo Plus)が約8割、FF Blast Plusが約2割というバランスだった。これにより、FF Turboの適度な硬さをFF Blast Plusが和らげながらも、全体としてエネルギッシュなプラットフォームを実現していた。
スーパーブラスト3では、この比率が大きく変化している。FF Blast Plusの層は公称「約1cm」とされているが、実測では各部位で1.5〜2cm、内側ミッドフットに至っては3.5〜4mmに達しているという。全体の構成比率はFF LEAPとFF Blast Plusが約6対4か、場合によって5.5対4.5に近いともいえる。
FF Blast PlusはFF Turboよりも「デッド」な感触を持つフォームで、エネルギーリターンに乏しい。FF LEAPの優れた反発力も、厚くなったFF Blast Plus層によって大部分が吸収されてしまう。着地時の第一印象は「非常にソフトで快適」だが、FF LEAPが圧縮された後にFF Blast Plusがその反発を完全に打ち消すため、前世代のようなエネルギーの返りが感じられない。ゆっくりとしたペースでは「マッシュ(柔らかすぎてぼやけた)」感覚が際立ちやすい。一方で、保護性・快適性・安定性という点では、現行のマキシマムクッションシューズの中でもトップクラスの仕上がりとなっている。
良い点と
悪い点
良い点
- FF LEAPによる優れたステップイン感覚とソフトなクッション性
- マキシマムクッションカテゴリー内で最高水準の安定性
- スーパーブラスト2より広くなったトゥボックスとゆとりあるフィット
- 10g軽量化によるホールド感の改善
- ボリュームのある外観に反する軽快さ
- 前足部のバウンスポッドによる独特の反発感(賛否あり)
悪い点
- ペースを上げると顕著になる「マッシュ感」——エネルギーリターンの乏しさ
- FF LEAP本来のパフォーマンスがFF Blast Plus層に相殺される
- 前足部のバウンスポッドが足裏に当たると感じるランナーもいる
- 内側くるぶしへの接触が生じやすいほどの「シューの大きさ」感
- マキシマムクッションカテゴリー内で競合シューズとの差別化が薄い
ASICSブラストシリーズにおける位置づけの整理
スーパーブラスト3の登場により、アシックスのブラストシリーズのヒエラルキーは明確に整理された。その中心に位置するのがノバブラスト(日常的なバウンシネス)、そこから二方向に展開する形だ。
一方向に進むとスーパーブラストに至る。これはマキシマムクッション・保護性重視のデイリートレーナーとして位置づけられる。逆方向にはメガブラストとソニックブラストが配置され、それぞれプレートなし・プレートありのパフォーマンストレーナーというカテゴリーを担っている。アシックス担当者との対話でも、スーパーブラストをコンフォート・保護性カテゴリーへ移行させ、メガブラストをパフォーマンスの主役に据えるという判断が明確に語られていた。
つまりスーパーブラスト3はもはや「スーパーシューズ的なトレーニングツール」ではなく、ホカやナイキ ボメロプレミアムなどと肩を並べる「マキシマムクッションデイリートレーナー」である。アシックスとしてはブラストシリーズにそのカテゴリーが必要だった——ただ、長年のスーパーブラストファンにとっては、方向転換であることも否めない。
主要モデルとの比較
| モデル | 特徴 | 弱点 |
|---|---|---|
| スーパーブラスト3 | 最高水準の安定性、ソフト&保護性、快適なデイリートレーナー | ペース向上時のマッシュ感、FF LEAPの性能が活かしきれない |
| メガブラスト | FF Turbo Squared搭載のエナジェティックなプラットフォーム、初代スーパーブラストのDNA | スーパーブラスト3より安定性がやや低い |
| ニンバス28 | FF Blast Plus全長+Pure GELテクノロジー、ライフスタイル兼用 | パフォーマンス性能は控えめ |
| サッカニー エンドルフィン アズラ | 幅広いペース対応、スーパーブラスト2のDNA継承 | スーパーブラスト3より安定性が低い |
スーパーブラスト3 vs メガブラスト
スーパーブラスト3はスペック上わずかにスタックハイトが高く、着地の安定感に優れる。しかしFF Turbo Squaredを搭載するメガブラストは、エネルギーリターンと全体的なパフォーマンス性能で明確に上回る。スーパーブラスト3がメガブラストに勝る点は「安定性」の一点に集約される。
スーパーブラスト3 vs ニンバス28
この比較は示唆に富む。スーパーブラスト3はより軽量でランニングフォーカスであり、「アシックス ニンバス プロ」と称したくなる立ち位置にある。外側ソールのジオメトリーは両者で非常に近く、より安定性が高いのはスーパーブラスト3だ。長距離ランに特化したフィットを求めるなら両者を組み合わせたローテーションは理にかなっている。
スーパーブラスト3 vs サッカニー エンドルフィン アズラ
スーパーブラスト2のファンで、「よりしっかりとした前足部の転がり感」を求める場合、実質的な後継はサッカニー エンドルフィン アズラと言える。アンダーフットの感触が驚くほど似通っており、エンドルフィン アズラはイージーランから閾値走まで幅広く対応できるオールラウンダーとして機能する。一方でスーパーブラスト3が持つ安定性には及ばない。
総括:「もう一つのマキシマムクッションシューズ」の意味するところ
スーパーブラスト3は、単体のシューズとして評価すれば水準以上の仕上がりだ。FF LEAPによる快適さ、業界トップクラスの安定性、洗練されたアッパーフィット——これらは多くのランナーに喜ばれるだろう。しかし「スーパーブラスト」というブランド名が持つ歴史的な文脈——プレートなしでレーシング級フォームを搭載したパフォーマンストレーナーというポジション——とは、明確に決別している。
市場にはすでに優れたマキシマムクッションシューズが溢れており、その中でスーパーブラスト3が突出した存在になれるかは未知数だ。コンフォート重視でマキシマムスタック、かつ最高水準の安定性を求めるランナーには十分な選択肢となるが、マラソンペースでのスピード練習や閾値走を主戦場にするランナーには物足りなさが残る。
一方でメガブラストの存在は、スーパーブラストシリーズが失ったものを引き継ぐ形で確実にその地位を固めつつある。初代スーパーブラストが切り拓いた「プレートなしのパフォーマンスブラスト」の系譜は、メガブラストへと受け継がれた。ブラストシリーズ全体の構成は今やより整合性を持ち、それぞれのシューズが明確な役割を担う形に落ち着いた。
スーパーブラストがアシックスのライナップにとって必要な存在であることは間違いない。ただしそれは、かつてのスーパーブラストとは別のシューズとして理解する必要がある。